日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 533
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都市鉄道における観光利用の可能性
――名古屋鉄道を事例に――
*西川 祐人
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抄録

通勤・通学といった都市鉄道の日常利用が減少するなかで,非日常利用,とりわけ観光利用の重要性が増している.しかし,既往の研究では鉄道会社による観光開発が取り上げられることはあっても,観光利用促進の戦略や観光客の鉄道利用それ自体に着目した研究蓄積は少ない.そこで本研究では,中京圏の代表的な都市鉄道である名古屋鉄道(以下,名鉄)を事例に,都市鉄道における観光利用の現状を分析し,将来的な観光利用の可能性を論じる.中京圏は名鉄やJR東海をはじめとする多数の鉄道会社が名古屋駅を中心に都市鉄道網を敷いているものの,鉄道分担率が低く,近年通勤・通学利用の減少に歯止めがかかっていない.まず,2005~22年度までの名鉄のポスター広告を分析すると,2018年度を境に従来型の景観観光を中心としたものから,体験型観光を重視する新しい観光戦略へと変化したこと,継続的に女性に特化した観光戦略がとられてきたこと,また「旅行商品」からは,名鉄名古屋駅から半径40kmの日帰り旅行圏と40km圏外の宿泊旅行圏が設定されるなかで,名鉄の観光利用促進が企図されていること等が明らかになった.そのいずれにおいても愛知県の犬山エリアが特別な地位を示していることがわかった.そこで,実際に犬山エリアに名鉄を利用して来訪した観光客56人へのアンケート調査を行った結果,総じて鉄道利用に大きな不満をもっている観光客は少なかったものの,中京圏外居住者は名鉄の「旅行商品」をまったく利用しておらず,その訴求力には疑問が残った.一方,中京圏内居住者は一定数が「旅行商品」を購入して来訪しており,そのなかでも「旅行商品」を利用した人の方が鉄道利用の廉価性や定時性を評価し,かつ鉄道観光特有の快適性を甘受している姿がうかがえた.ただし,混雑や不便な乗り継ぎなどが発生するとそうした人々の観光の快適性が阻害され,鉄道利用そのものの不満につながる可能性もあるため,「旅行商品」の訴求力向上とともに,観光に向けた鉄道利用の快適性を向上させるようなさらなる取り組みが求められると,本研究では結論づけた.

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