日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 848
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知床世界自然遺産・ルシャ地区海岸における海岸漂着物の経時変化
*西川 穂波白岩 孝行
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抄録

1. はじめに

 北海道,知床半島沿岸には人為起源の漂着物が多数確認されており,これまで回収作業やボランティアによる海岸清掃が行われてきたが有効な対策はいまだ見出されていない (知床財団,2010).特に漂着量が多いとされる半島西側に位置するルシャ地区海岸には流木や漁網,ペットボトルなどが数多く堆積している.この海岸は野生動物の生活圏の一部であり,沿岸域は漁業や観光に利用されている.河川や海を通じて海岸に運ばれたごみは海岸上で滞留,あるいは海洋中に再び排出されると考えられる( Olivelli et al., 2020 ).よって,生態系への影響や海岸の景観,海洋汚染の観点から漂着物は早期に回収されることが望ましい.本研究では効果的な回収計画の提案に向けて、海岸上での漂着物分布や季節的な変化を明らかにした.

2. 方法

 本研究ではRTK-UAV( Real Time Kinematic-Unmanned Aerial Vehicle )を用いてSfM多視点ステレオ写真測量( Structure–from-Motion/Multi-View Stereo Photogrammetry )を行った.撮影は2021年10月12日から2023年6月14日の期間に計3回行った.撮影画像からSfM/MVS処理により海岸の 3 次元モデルを構築し,DSM ( Digital Surface Model )およびオルソ画像を作成した.海岸の西部,中央部,東部において,各オルソ画像から漂着物の分布と面積を調べた.調査期間中はタイムラプスカメラによって海岸の連続撮影を行った.また,地形断面測量から漂着物の層厚を求めた. 3. 結果・考察

 海岸の西部,中央部において,漂着物は後浜から背後の植生域まで広く堆積していた.東部では漂着物は後浜にまばらに存在し,堆積域は西部,中央部より小さかった.また,地形断面測量の結果より,漂着物は海岸中央部で最大1 m 程度堆積しており漂着量が少ない東部では数十 ㎝ 程度の厚さであることが明らかとなった.調査期間中における漂着物の空間的・時間的変化をオルソ画像から判読すると,西部では堆積域の汀線側で漂着物の堆積域が増加していたが,東部では堆積域が減少していた(図1).網走沖の波浪データによれば,周辺海域は夏期に波浪が弱く、海氷期を除く冬期に波浪が強まる季節パターンがある.設置した1時間間隔のタイムラプスカメラ映像から,2021年12月26日-27日,2022年1月3日-7日,11月14日-15日,12月24日-27日の高波浪期に波が後浜に到達し,新たな漂着物の付加と堆積していた漂着物の流出が確認された.2021年から2022年において,西部では汀線側に堆積域が広がっていたが,中央部では陸域方向に堆積域が移動していたことから,冬期の高波浪は後浜の漂着物に変化を及ぼすが,西部の後浜背後に位置する浜堤に堆積した漂着物は影響を受けていないことが示唆された.

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