日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 716
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待ち人来たらずへの許容度を通じた主観的幸福度の発現検証
*森 泰規
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抄録

幸福度の発現

本稿では、当事者の「主観的な幸福度」(いわゆる「ウェルビーイング(Subjective Happiness Scale / Subjective Well-being)」)は日本国内における「小泉改革」以降の経済格差増大が、主観的幸福感の実質的な低下をもたらしておらず(山根ら2018)時系列的に平均幸福度と平均所得との間で相関関係は認められないことから、その説明要因として社会関係資本に注目する研究がなされている(古里・佐藤編2014)。本稿では、逆向きの十分条件として考え、幸福度は人とのつながりや一般的信頼に発現するのか検討する。

検討の方針と分析方法

博報堂生活総合研究所では、1992年より隔年で東阪の生活者を対象とした意識調査『生活定点』ではその項目内に、「今の生活が楽しいかどうか」を4段階(楽しい方だ、やや楽しい方だ、あまり楽しくない方だ、楽しくない方だ)(以降主観的幸福度)を、また「約束の時間に遅れてくる友人を待てる時間(来るかどうか相手を信頼する尺度)」の平均時間をきく設問(以降、人待ち上限時間とする)を有する。今回はこれらを指標として用いて検討を行う。本調査はおよそ3000 名程度を有効回収数とし,首都圏 40キロ圏(東京・埼玉・千葉・神奈川・茨城各都県),阪神 30キロ圏(大阪・京都・兵庫・奈良各府県)に対し,18 歳から69 歳の男女を調査実施年の国勢調査に基づく人口構成比(性年代 5 歳刻み)で割付,各調査年の5・6月(2020 年のみ6・7月)に訪問留置法で実施する。今回は前述の設問を行っている2000年以降を使用し、分析効率を高めるため、「主観的幸福度」は諾否の二項に整理の上、「人待ち上限時間」に対し、ノンパラメトリック検定(Kruskall-Wallis)実施した。結果、過去20年分の合算値・東阪ごとの結果では有意な差(p < .01)があり、かつ主観的幸福度あり群においては、平均値に有意な違い(0.4分程度長い)が確認できた。ただし調査年ごとにみると有意差を得るのは2018年, 22年のみ、東京のみでは06年と22年、大阪のみでは08年と18年のみとなる。

結果と考察 遅れてくる友人を来るかどうか信頼して待てる時間に置き換えた場合、主観的幸福度の高い生活者の方が有意に長くその遅れを許容することから、幸福度は一定程度一般的信頼として発現するものと考えられる。一方で調査年ごとに見ると差異がないケースもあることからこの件については複数年時にわたり長期的な視点で観測を行う必要があるとも考えられる。

参考文献

山根智沙子, 山根承子, & 筒井義郎. (2008). 幸福度で測った地域間格差. 行動経済学, 1, 1-26.主観的幸福感とソーシャル・キャピタル――地域の格差が及ぼす影響の分析(古里由香里・佐藤嘉倫) 辻竜平・佐藤嘉倫編 『ソーシャル・キャピタルと格差社会――幸福の計量社会学』2014 東京大学出版会

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