日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P034
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日平均気温の年変化における段階的な季節遷移
*高橋 日出男
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抄録

◆ はじめに

 地球温暖化などの気候変化に関連し,近年季節や作物生育期間等の長期変化が数多く議論されている。そこでは十分に平滑化された年々の気温時系列に対して様々な気温閾値をあてはめ,季節・期間の開始日,終了日などが求められている(Allena and Sheridan 2016, Park et al. 2018など)。簡便で,ある意味客観的であるが,平滑化された気温年変化に基づく季節の開始日や終了日などの具体的な意味が明確ではなく,季節と大気循環との関係などに議論が展開されにくい。一方で,かつて木村(1963)は,国内の気温年変化は階段状の不連続なものであり,広域的に一斉に起こることを指摘している。また,東京の1地点であるが,統計的に6個の階段状変化を年々の日平均気温にあてはめた岩本・沖(2019)は,変化の期日から季節の長期変化を想定している。気温の年変化自体に存在する不連続的な大きい変化は,より具体的に季節の推移を捉える指標として有用な可能性があるが,気団論では解釈されず擾乱や上層の流れとの結び付きは見出せない(木村 1963)ことや,気圧配置型による季節区分と同期しない(岩本・沖 2019)などの指摘もあり,応用には十分な検討を要する。

 本研究は,気温年変化に認められる階段状の変化(以下,遷移と表現)に着目して,広域的に季節とその長期変化を捉えることを目的とし,まず日平均気温における遷移の気候学的な現れ方(地域性や時期,頻度など)について日本国内を対象に予察的な解析を行った。

◆ 資料と方法

 本研究では1901–2020年を対象とし,この期間に日平均気温の統計切断や欠測がない地点を用いる。ただし,東京は2014年に観測露場の移転による統計切断があるが,移転の影響を気象庁による平行観測や近隣アメダスデータによる検討後に接続させて,国内15地点(表1)を対象とした。

 毎年の気温年変化に現れる遷移の検出にあたり,ある日を境とした前期間(TB)と後期間(TA)の各n日平均気温の差(ΔT [℃]=TA – TB)を指標とし,季節の区切りとなり得る年に数回の大きい遷移を抽出する。ここでは n =15 とし,地点毎に全対象期間のΔTについて,95 percentile以上の連続する期間を昇温遷移期間,5 percentile以下の連続する期間を降温遷移期間として,各期間における |ΔT| の最大日を遷移日とした。なお,閏年には2月29日のΔTを使用せず,1年を365日として集計した。

◆ 結果

 図1には,120年間において遷移期間となった暦日別頻度(回数)と,それをK-Zフィルター(9日間移動平均を3回繰り返す)によって平滑化した値を,東京と多度津について例示した。東京では4月初めの昇温遷移と9月後半の降温遷移の頻度が高く,両極大は根室・札幌や石垣島を除く各地点で同時期に明瞭に認められる。6月から7月にかけても昇温遷移の頻度が高くなり,東京を含む東~北日本では7月中旬に,多度津など西日本では6月末から7月初めに極大が現れる。11月中旬の降温遷移の極大は,特に北日本において明瞭である。また,やや不明瞭であるが,東~北日本では5月末から6月初めにも昇温遷移の極大が現れる。国内の昇温遷移と降温遷移は,それぞれ3個ないし2個の時期に,ある程度の空間的な広がりを持って認められる(表1)。ただし,各遷移期間の高頻度時期は,従来の気候学的な季節区分とは対応せず,梅雨・夏・秋・冬の開始に1, 2週間ほど先行し,春はその期間中に遷移期間の頻度極大が現れる。

 遷移発生時期の長期変化を概観するために,対象期間を30年毎の4期に分割して遷移期間となった暦日別頻度を求めた。その結果,多くの地点で4月初めの昇温遷移や9月後半の降温遷移に,近年では極大頻度の減少と遷移時期の遅れる傾向が認められた。この傾向は,遷移日後期間の平均気温(TA)によって遷移の季節を分類した場合に,大きい遷移(|ΔT|の上位25%)を示した春への昇温遷移日や秋への降温遷移日の経年的な遅延傾向としても認められる。

 今後は,アジアや世界における気温の遷移時期を求めて空間構造を把握するとともに,遷移に対応する循環場の変化を抽出し,気温の遷移と循環場の変化とを組み合わせて季節の長期変化を考えたい。

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