日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P088
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静岡県三島市における子どもの水辺空間利用
*坂本 優紀山下 亜紀郎
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抄録

1.研究目的

 都市内の水辺空間に関しては,近年,その重要性が再認識され,親水空間としてハード・ソフトの両面から活用が期待されている。一方,水辺空間には事故や怪我などの危険性が潜み,特に子どもの利用に規制を設けている地域が多数みられる。これは,大人による子供の利用空間の制限であり,こうした規制は大人による地域や場所の捉え方と理解できる。

 そこで本研究では,子どもの水辺空間の利用を明らかにすることを目的とし,それにより地域社会の水辺空間に対する認識を検討したい。本研究の対象地は静岡県三島市である。三島市は,市街地を源兵衛川など複数の河川が貫流し,行政や住民により積極的に水辺空間の整備や保全活動がなされている地域である。

2.調査の概要

 本研究では子どもの水辺空間の利用形態と場所を明らかにするため,アンケート調査と現地での観察および教育関係者への聞取り調査を実施した。

 子どもが利用できる範囲は学区により制限を受けるため,本研究では複数の河川が流下し,親水空間が整備されている場所を学区に含む三島市立北・西・南小学校の三校の5年生にアンケート調査を実施した。アンケート調査は2023年10月に各学校の教員を通して配布・回収を行った。北小および西小は授業中にアンケート票の配布と回収を行い,南小は学校でアンケート票を配布し,自宅で回答して提出してもらう形式とした。アンケート調査では,地図上によく利用する水辺を3地点まで示してもらい,その地点での行動と同行者,利用季節等を回答してもらった。その結果,258人中201人の回答を収集した。各学校の回収数は北小が100人,西小が53人,南小が48人となった。なお,各学校の児童数はそれぞれ108人,58人,92人であり,北小と西小はアンケート調査当日に出席していたほぼ全ての児童から回収できた。一方,南小の回収率は52%であった。また,一人3地点まで回答をできるようにしたため,総回答数は421であった。

3.結果

 アンケート調査の結果,水辺空間を利用すると回答した人数は北小が30人,西小が33人,南小が31人の合計94人(47%)であり,約半数の児童が水辺空間を利用していることが明らかとなった。具体的な行動では,水遊びや魚取りなどの直接水に入る行動と,散歩や動植物の観察といった水に入らない行動の二種類が挙げられた。前者は80人が回答しており,直接的な利用をしている児童が多いといえる。 利用する地点については各小学校の学区に制限を受け,北小は上岩崎公園,西小は清住緑地,南小は中郷温水池周辺で30%を超える児童が利用していることが明らかとなった。ここで水辺空間の利用地点に着目すると,北小と西小では源兵衛川の上流部での利用が最も多く,それぞれ15人,と22人であった。一方,南小では源兵衛川の上流部の利用は12人であり,中流部の中郷温水池で最多の24人の回答があった。以上の結果より,本研究で対象とした児童の多くが利用する水辺空間は源兵衛川であることが示された。上記の内容は,現地観察の結果とも一致している。

 一方,三島市においても子どもの利用に際して制限が設けられていないわけではなく,桜川の流れが速くなる地点では利用を禁止する案内が夏季のみ掲示されるなどの取組みもみられる。こうしたことから,子どもの利用場所においては,大人によって安全な範囲が決められているものといえよう。ただし,その範囲は限定的である。また,子どもの利用においては,水質等の問題も重要となるが,三島市の河川では良い水環境が維持されていることも,利用を可能にしている。

 以上より,三島市における子どもの水辺空間利用については,直接水に入る利用が多く,その背景には地域社会が水辺空間を子どもの遊び場として肯定的に捉えていることがあると考えられる。

付記

本研究は,「公益財団法人国土地理協会2022年度学術研究助成(代表者:山下亜紀郎)」を得て実施したものである。

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