日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: S503
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津波被災想定地域における避難所アクセシビリティと需給バランス
*田中 耕市
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抄録

I.研究の背景と目的 2011年の東日本大震災以降,以前よりも大きな災害を想定した防災・減災対策が全国的に取り組まれるようになった.特に,南海トラフ地震による津波被災が予測されている西日本の太平洋沿岸地域では,避難所および緊急避難場所の設置や再配置,避難ビルの指定,避難タワーの建設など,避難施設の見直しや新規建設が進められてきた.しかし,沿岸部における所与の地理的条件(周辺地形,道路ネットワーク形状,人口分布,中高層建築物の有無など)には差異があり,避難所および避難場所の配置や,避難経路の設定には様々な制約がかかる.そのため,避難アクセシビリティの地域的差異はどうしても生じてしまう.地理的条件による制約には,人の手によって改善しがたいものと改善可能なものがあり,後者についてどれだけ改善できているかという点が重要である.2024年能登地震では,珠洲市や輪島市の一部地域において地震発生から約1分で津波が到達した.内閣府南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループの予測によれば,南海トラフ地震においても1mの津波が最短で2分で到達する箇所がある.しかし,当然ながら,防潮堤が整備されていれば,沿岸部到達時刻からすぐに内陸に遡上するわけではない.津波が防潮堤を越えて内陸に遡上するまでの時間に,安全な場所への避難が必要となる.本研究では,南海トラフ地震による津波被害の危険性が高い沿岸地域を対象に,避難施設へのアクセシビリティを評価するとともに,各施設への避難者数を推計することにより,避難施設の空間的な需給バランスを明らかにする.それによって,避難施設の空間的配置の課題を明らかにする. Ⅱ.対象地域と研究方法 本研究は対象地域として主に徳島県沿岸部を取り上げた.南海トラフ沿いにおけるマグニチュード8から9の大地震は,今後30年以内に発生する確率が70~80%と予測されている.徳島県沿岸は,過去にも,1707年(宝永地震),1854年(安政南海地震),1946年(昭和南海地震)と,津波の被害を繰り返し受けてきた.南海トラフ地震の最大津波モデルによる徳島県の浸水面積は200km2を超えると予測されている.本研究では,2023年7月時点における避難施設データと,2020年の国勢調査と住宅地図データを用いて,各住宅からの避難施設までの距離と,施設ごとの避難者数を推計する. Ⅲ.避難施設の配置と津波浸水域人口の分布 徳島県の沿岸部は,北部は平野が広がっている一方,南部ではリアス海岸が大部分を占める対照的な地形をなしている.県内における津波災害時の避難施設数は800を超える.南部では,津波高は比較的高く予測されているが,沿岸部の住宅地に山が迫っているために,避難施設までのアクセシビリティは相対的には良い傾向にある(図1).

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