日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P040
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湘南海岸の海浜植生に影響を及ぼす踏圧と微地形の関係
*小池 青小川 滋之
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抄録

海浜植生は海浜地域の開発や海岸侵食に伴って危機的な状況に立たされている(由良 2014)。こうした状況の一因として、砂浜における人間活動によって引き起こされる踏圧の問題が挙げられる。行楽地として多くの人々が通る場所あるいは車両の走行が許可されている場所では強い踏圧が働き、植物の生育に影響を及ぼす。踏圧への耐性は種によって異なることが知られているほか、登山道では微地形に起因する路面の歩きづらさが、登山道外へのはみ出しを誘発し、結果として周辺部まで踏圧がかかり植生衰退を招くとされている(小林1998)。多様性を擁する海浜植生の保全において踏圧による影響の現状を把握することは重要である。本研究では海浜植生における出現種と微地形の分布を明らかにするとともに、得られたデータから踏圧の影響について考察する。

 神奈川県大磯町から平塚市にかけての海岸を対象地域とした。ここは、大磯海水浴場や大磯こゆるぎの浜、虹ケ浜をはじめとした名称が付けられ、日本を代表する海水浴やマリンアクティビティの拠点となっている。人の流動により強い踏圧による影響がある場所でもある。これらの地域において4か所のベルトトランセクト(地点A~D)を設置し、内部に1 m×1 mのコドラートを設けた。植物が出現する最も汀線側をコドラート(以下Q)1としてQ2, Q3…と付番し、コドラート内に出現する植物種の同定およびコドラート内を占める植被率のデータを取得した。また、調査地点の微地形についてクリノメーター、ハンドレベルを用いて簡易的な地形断面測量を実施した。

 対象地域には2つのタイプの微地形が見られた。一つは、海側から内陸側に緩やかに高まり、局所的な平坦面を挟みつつ、最終的には急斜面を伴って西湘バイパスの法面に至るタイプ、もう一つは海側から緩やかに高まるものの、平坦面が広いタイプの微地形である。植物群落は緩斜面、平坦面の区別なく出現した。複数のベルトトランセクトに出現したのはコウボウムギ、ハマヒルガオ、ハマボウフウ、ビロードテンツキの4種であった。植被率は全体的に海側で低く内陸側では高くなる傾向がみられたが、内陸側においては局所的に低い値がみられる箇所もあった。

 今回の調査結果からは微地形とすべての植物種を含めた植被率との間に、平坦地において低位であるという特徴がみられた。このことは、登山道における歩行しやすい場所に踏圧が強く働くという事例(小林1998)と同様であり、砂浜でも比較的歩きやすい平坦面に対して選択的に踏圧がかかることを示唆している。平坦地では、水流などによる地表面の攪乱が少ないとみられるが、対象地域の平坦地においては歩行が踏圧や地表攪乱をもたらし、植生分布を規定していると考えられた。今回は、個々の植物種と踏圧の関係について見出だすことができなかったものの、海浜植生の多様性を保全するには何らかの対策を講じることも必要であろう。

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