日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 847
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根室半島西部,落石岬周辺における条線土の記載と層序
*近藤 玲介澤田 結基高野 建治井上 京山本 忠男
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抄録

I.はじめに 

 北海道東部,根室半島周辺では,平野部において現成の周氷河性微地形が分布することが知られる(たとえば小疇ほか,2003).特に,根室半島西部を中心とした地域の太平洋岸の草原には,畝溝状の形態を呈する現成の可能性がある条線土が分布している.本地域において条線土の詳細はこれまで記載されておらず,その形成史やプロセスなどで不明な点が多い.そこで本発表では,根室半島周辺で条線土が最も広い面積に連続的・模式的に分布する半島西部の落石岬周辺において,その地形学的記載と層序について,速報的に報告することを目的とする.

II.方法 

 北海道東部太平洋岸を中心とした地域を対象に衛星・空中写真判読を行い,条線土が分布する地域を抽出した.本発表の調査地である落石岬周辺では,ドローンによる写真測量を行った.野外調査では,検土杖およびトレンチ調査により層序を記載した.トレンチ掘削にあたっては条線土の横断方向に深さ約1 m,長さ約2.5m程度,条線土頂部での縦断方向(最大傾斜方向)に深さ約1 m,長さ約1.5mの調査壁面を設置した.

III. 調査地点周辺の地形・地質概要

 野外調査地点は,根室半島西部の落石岬の基部付近に位置する.調査地点(標高約15~30 m)周辺は,中期更新世に離水したと考えられる海成段丘および丘陵を主体とし,小規模な侵食谷が発達する.谷底の沖積低地には小規模な流路と湿原が分布する.本研究で対象とした条線土は丘陵斜面に分布し,周辺の頂稜部や丘陵基部斜面と谷底低地の境界付近には大型のアースハンモックが密に分布する場合がある.これらの条線土とアースハンモックは地形的に漸移的な分布を示す場合や,中間的な二次元形態を示す場合がある.条線土およびアースハンモックが分布する地形面の植生は主にササからなる草原であり,周辺には扁形・矮性低木化したカラマツ属の植林が疎らに分布する.

IV.結果とまとめ

 本研究で主対象とする条線土と同様なものは,厚岸湾以東の草原で多く出現し,霧多布湿原から落石岬にかけての沿岸部で特に多く分布する.これらの条線土は現海岸線から内陸に約1 km以内の丘陵斜面や,段丘崖が二次的に緩斜面化した地形面に発達する.条線土が分布する斜面の傾斜は,10~35°程度である.これらの条線土は,北~北東斜面に多く出現し,相対的に地形的に明瞭なものが多い.調査地点周辺の条線土は,凹部からの高さ10~50 cm,条線幅50~100 cm程度の畝溝構造を呈し,いずれも主にササで完全に植被されている.

 条線土の発達する斜面における検土杖とトレンチ調査の結果,層序は下位から基盤岩,シルト質砂礫層,砂質シルト層(ローム層),摩周f~jテフラ(約7.5 ka;岸本ほか,2009),シルト層(ローム層),クロボクである.摩周f~jテフラは,主に直径0.2~1.0 cmの軽石を主体とする.本地点では,砂質シルト層以浅で波状構造が認められ,表層のクロボクが最も顕著に波状構造が認められた.

 以上の結果に基づき,調査地点の条線土は有機質土壌からなる不淘汰条線土(たとえばWashburn, 1979)の一種であると考えられる.本地域においては,条線土が北~北東斜面で顕著に発達することや,出現頻度が高い地域は霧発生日数の特に多い地域に該当することから,冬季季節風と霧の影響が分布特性に寄与している可能性がある.また堆積物の層序から,本地点では約7.5 ka以降に条線土の形成が開始されたことが明らかとなった.

引用 岸本ほか 2009.火山 54: 15-36.; 小疇ほか 2003.『日本の地形2 北海道』; Washburn, 1979. 『Geocryology: Survey of Periglacial Processes and Environments』

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