日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 406
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中国の高度経済成長期における農業地域の変容
食糧産地に着目して
*張 貴民
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抄録

1.はじめに

 1978年から現在まで改革開放政策の導入に伴い、中国の都市も農村も大きく発展してきた。その中に特に約20年間の高度経済成長期が顕著に見られた。この研究は、食糧産地に着目して、中国における高度経済成長期の農業地域の空間的変容とその地域的要因を考えるものである。

2.食糧生産の時間的推移と空間的変容

 中国は人口大国であるために、農業における食糧生産の地位は従来から高い。1960年前後の大躍進運動による減収、1996年の生産過剰および2003年の天候不順による減収等の時期を除けば、基本的に人口増加に伴い食糧生産量は右肩上がりに推移し、2022年に68652.8万トンに達した(第1図)。また、農業地域とくに食糧産地の空間的分布は地形・気温と降水量等の空間的組み合わせにより強く制約されている。食糧産地は伝統的に東部平野地域(東北平野・華北平野・長江中下流平野・珠江デルタ地帯)と中西部の盆地(四川盆地、汾渭盆地、河套平野)等に集中している。一方、都市化と工業化の圧力の中で、食糧産地は空間的に変容している。劉ほか(2009)によれば、1990年から2005年までの15年間、食糧産地の重心は「東北→南西→東北」のように223.3 kmを移動した。他の研究でも食糧産地の空間的移動が指摘されている。大規模経営が可能な東北地方では産地が形成している。大都市周辺では、農地の都市的土地利用への転換や野菜などの商品作物の栽培面積の拡大や食糧価格の変動により食糧生産量は不安定である。また消費者嗜好の変化により、米や麦のような伝統的主食の消費量が減り、健康に良いとされる雑穀類の生産量が増える地域もある。肉類や乳製品の消費量が増加し、飼料作物の生産を押し上げている。統計によれば、食糧の輸入量は2010年の6695万トンから2020年の14262万トンまで増加し、同時期の中国国内食糧生産量の21%に相当する輸入量であった。食糧調達の空間は海外まで拡大し、国際食糧市場に大きな影響力を与えている。

3.考察

 都市化との競合の中で食糧産地の形成と発展は一定規模の農地面積(基本農田)に不可欠である。良質な農地面積の減少や農地の空間上の分散化は産地形成を阻害している。また、従来、消費地に近くて立地上に優位のある食糧産地は衰退の傾向があり、食糧産地は生産コストの低い地域へ移動している。政府の食糧買付価格の低迷と農用資材の価格の高騰、農家の高齢化、営農意欲の低下などが不安定要因であり、食糧産地の振興や、食糧安全保障上の課題になっている。

謝辞 本研究はJSPS科研費 23H00029「中国の高度経済成長期における空間構造変化の研究」(研究代表者:小島泰雄)の助成を受けたものである。

主な参考文献:

張貴民(2011):巨大な人口を養う食料生産、上野和彦編『世界地誌シリーズ2 中国』朝倉書店、61-70。

張秋夢ほか(2021):改革開放以来中国食糧生産空間重構、自然資源学報、36(6)、1426-1438。

劉彦随ほか(2009):中国食糧生産與耕地変化的時空動態、中国農業科学、42(12)、4269-4274。

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