日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P087
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静岡県三島市源兵衛川が都市の熱環境に与える影響
*渡来 靖山下 亜紀郎谷口 智雅坂本 優紀
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抄録

1.はじめに

 静岡県三島市の源兵衛川は,富士山の噴火により形成された三島溶岩流末端部の豊富な湧水を水源とし,三島市街地をほぼ北から南へ流れる農業用水路である.一部の流路は川縁や川中に飛び石などの遊歩道が整備され,市民の憩いの場としても利用されており,さらに水の郷・三島を代表するスポットとして観光資源としても活用されている.源兵衛川のように都市内水辺空間として整備・保全された区域では,河川や樹木等の影響により周辺とは異なる熱環境が形成され,それが源兵衛川に人々が訪れたくなるような魅力の向上に貢献している可能性がある.そこで本研究では,源兵衛川とその周辺市街地における地上気象観測をもとに,源兵衛川の熱環境について調査を行った.

2.調査方法

 現地調査は冬季の2023年2月20日〜24日と,夏季の2023年8月27日〜31日に実施した.源兵衛川における気象要素の日変化を捉えるため,源兵衛川の流路上に定点を設置した.また比較のため,源兵衛川観測点より南東に約450 m離れた三島市営駐車場東口広場にも定点を設けた.これら2つの定点において,気温,相対湿度,黒球温度および風向・風速の連続観測を行った.

 源兵衛川やその周辺の気温分布の特徴を捉えるため,三島市街地の東西約700 m,南北約700 mの範囲について,上記2定点を含む24地点を設定して徒歩による移動観測を実施した.冬季日中(2月21日),冬季早朝(2月22日),夏季日中(8月28日),夏季早朝(8月30日)の計4回実施した.測定項目は気温のみで,日中は14〜15時頃,早朝は日出前後に観測した.

3.結果と考察

 冬季の定点観測において,日出後の気温上昇は市街地の方が源兵衛川に比べて急であり,源兵衛川は市街地に比べて最大3 ˚C程度低くなるが,夕方から夜間にかけては源兵衛川の方が最大1 ˚C程度高温となっている.移動観測の結果から,冬季早朝の気温分布は源兵衛川に沿って,周辺よりやや高温となっている.午前中の気温差は,源兵衛川左岸の樹木や建物による直達日射の遮蔽効果が大きく影響していると思われる.冬季の源兵衛川の水温は15〜16 ˚C程度であり,河川が熱源となり源兵衛川での気温をより高くした可能性がある.

 一方,夏季は一日を通して,源兵衛川が市街地(気象庁三島観測所)より低温な傾向を示している.移動観測結果からも,日中も早朝も源兵衛川付近が周囲より低温な分布が見られる.夏季の源兵衛川の水温は16〜17 ˚C程度であり,冷源として源兵衛川が周囲より低温な熱環境の形成に貢献していると考えられる.

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