1.はじめに
地球温暖化の進行に伴い、陸域と海洋域の間の温度差が拡大し、東アジア夏季モンスーンの特徴にも変化が生じている可能性がある。例えば、Ding et al.(2018)は、1948~2017年の東アジア夏季モンスーン指数を分析した結果、1970年以後の東アジア夏季モンスーンの強度は、著しく減衰傾向にあることを指摘した。さらに、その強度は十年規模で変動していることを示した。一方、Wang et al.(2024)は、中国では1951~2000年にかけて、夏季の降水量は顕著な増加傾向があることを示した。その要因を調査するために、各月の東アジアモンスーン指数(モンスーンの強弱を示す指数)を分析した結果、4月と10月の指数はそれぞれ、夏季モンスーンの開始と終了に関連することを明らかにし、それらの変動が夏季の降水量の増加傾向と結びついていることを示唆した。さらに、これらの指数の変動には、ENSOが強く影響している可能性も示した。そこで本研究は、中国の中でも夏季モンスーンによる影響を大きく受ける南東部に着目し、雨季の特徴とその年々変動を明らかにした上で、これらとENSOとの関係性を考察することを目的とする。
2.使用データと調査方法
本研究では、中国における年間降水量の空間分布、季節変化パターンの特徴を分析するために、APHRODITE's Water Resourcesプロジェクトによる緯度・経度0.25°のAPHRODITE モンスーンアジア域降水データセット(Yatagai et al. 2012)から1998~2015年の日降水量データを使用し、Wang and Ding(2008)を参考に、以下の式を用いて各半旬の降水量を標準化した。
yi=2(xi−xmin)/(xmax−xmin)−1
yiは標準化した降水量の値、xiは第i半旬の降水量、xmaxとxminはそれぞれ年間の半旬降水量の最大値と最小値である。標準化した降水量の値は[-1,1]の範囲内に収まる。本研究は中国南東部の各グリッドにおいて、この値が初めて0.5に達した半旬を雨季の開始半旬として定義した。値が0.5を下回った場合、次の半旬を雨季の終了半旬とした。さらに雨季の特性を詳細に把握するために、雨季のピーク半旬、継続期間、年降水量に占める雨季降水量の割合も算出し、その地理的分布の特徴を考察した。
3.結果と考察
中国南東部の雨季の開始半旬の地理的分布を図1に示す。雨季の開始は南東部沿岸で早く、内陸の北西に向かって遅くなる。雨季の開始は、長江中下流と南東部沿岸では24半旬前後(4月下旬)で、北の内陸部の北西では42半旬(7月下旬)である。さらに、図1から南東部の沿岸(115~125°E、22.5~30°N)では等値線が密になっているため、この地域では雨季の開始時期に大きな差があることが分かる。この傾向は雨季の終了半旬、継続期間、ピーク時期の空間分布にも同様に見られた。
雨季のピーク時期は、南部では32~38半旬(6月頃)で、内陸の北西では44~48半旬(8月頃)である。雨季の終了は、長江中下流と南東部沿岸では38~40半旬(7月上旬~中旬)で、北の内陸部の北西では50~52半旬(9月上旬~中旬)である。雨季の開始と終了はそれぞれ夏季モンスーンの北上と南下を反映していると考えられる。雨季のピーク時期は夏季モンスーンの活発時期に対応すると考えられる。
雨季の継続期間は南から北へ向かうにつれて短縮し、南部では12~18半旬(約2~3カ月)、北部では6~10半旬(約1~1.5カ月)である。また、雨季の降水量は年降水量の30%~45%を占める。これは夏季モンスーンが中国南東部で長く停滞するためであると考えられる。
発表では中国南東部の雨季の年々変動の特徴についても示す。