日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 448
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STEAM教育の概念を活用したGISに関する教員研修プログラムの開発
*小倉 拓郎遠藤 未来山内 啓之小池 紗也香𠮷水 裕也
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抄録

2019年12月に文部科学省が発表したGIGAスクール構想によって,全国の初等中等教育の現場に,1人1台のタブレット端末やノートPCが配布された.これにより,ICT活用の可能性が広がり,学校教育においてもデジタル教材へのアクセスが容易となってきている.学校現場で使用されている検定教科書についても,デジタル端末を通して動画や音声,ウェブサイトへのアクセスが容易になった.地理学習においても,デジタル端末を利用することで,映像や写真へのアクセスや, Webブラウザを使用した地理院地図をはじめとするWebGISの閲覧が容易となっており,ICT教育やSTEAM教育との親和性が高い.一方,ICT活用を苦手としている教員は依然として多い.教材を試しに使ってみる経験ができていない教員も多く,地理学習においてどのような教材を使用すればよいのか十分な教材研究ができておらず,教員研修の場が必要である.

 そこで演者らは,2024年7月31日に,兵庫県内の教員12名(小学校教諭7名,中学校教諭3名,高等学校教諭2名)を対象として,「3Dで地形を見る・動かす・つくる:Blenderと地理院地図を用いた授業デザイン」と題し,2Dおよび3Dのデジタル地図活用に関する教員研修を実施した.教員の専門教科は,社会科に限らず,美術,理科,国語,家庭,情報など多様であった.本教員研修の企画にあたり,インテル株式会社のSTEAM教育支援の取り組みである、インテル® Skills for Innovationをベースとして,どのように教育現場の地理教育の研修へ導入することができるかについて,教員研修教材を開発した.

 受講生は,事前課題としてテクノロジーを利用してアップデートしたい授業のテーマやスキル,活動などの素案を記録したアクティビティデザインシートを作成した.その上で,STEAM教育の概念をベースとしたマインドセットやデザイン思考に関する解説,テクノロジーを地理教育に導入した事例として,GISの概念の基礎,地理院地図を用いた2Dおよび3Dの地図表現の実習,3Dモデルの編集ソフトであるBlenderを用いた3D地図の編集に関する実習を受講した.最後に,グループに分かれて事前課題のアクティビティデザインシートを改善する実習を行い,当日の実習で身につけた地図表現の技能を用いて授業案の改善とデジタル地図教材の作成を行った.

 受講生が提出したアクティビティデザインシートの改善プロセスを時系列で比較し,本研修で身につけたマインドセットや地理的技能をどのように授業デザインに導入した傾向がみられたかについて検証した.その結果,12名中10名の教員が,当日に身につけた技能を用いて,表現したい自作の地図を作成することができた.また,地図によってスケール感や表現できる解像度の違いなどを理解した上で,もともと想定していたツールの取捨選択を行っていた例もあり,地図リテラシーの向上がみられた.受講後アンケートでは,テクノロジーにまず触れてみることの重要性や,ツールやソフトを目的や対象にあわせて使い分けることの必要性を挙げる意見がみられた.また,異校種や他教科の教員とのコミュニケーションや共同作業を通して,自身の専門教科や校種で学習する内容を,新たな視点で改善することができたという意見もみられ,STEAM教育の概念を活用した教科等横断的な学習を実践することができた.

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