主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2025年日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2025/09/20 - 2025/09/22
はじめに
水田栽培時期の水田域は,地表面が湿潤なため,周辺の他の土地利用(都市域など)よりも気温が低く,水蒸気圧が高い傾向であるため,暑熱緩和機能を有することが指摘されている(Kumagata et. al., 2018).一方,熱中症リスク指標である暑さ指数(WBGT)は,気温に加えて湿度・日射・風の影響を受けるため,水田と都市域でリスクがどう異なるかは十分に明らかでない.そこで夏季の高温が顕著で,都市域と水田が近接する埼玉県北部(熊谷市・羽生市周辺)を対象に,両環境で観測した気温とWBGTの差異を解析した.
使用データと方法
熊谷市市街地と隣接水田(K-paddy),羽生市市街地と風通し良好な水田(H-a),建築物等で風通しが悪い水田(H-b)に暑さ指数計を設置し,約10分間隔で気温(Ta)・WBGT等を連続測定した.市街地から水田を引いた値の差(ΔTa, ΔWBGT)を算出し,解析対象日の値を時刻別に平均した.解析対象は2025年6月20~29日のうち雷雨等の影響が認められなかった6日間である.学会報告では観測期間を2025年9月初旬まで拡張した結果を提示する予定である.
結果
解析した結果を図1に示す.熊谷のΔTaは,一日を通じて正であり,市街地の気温が高かった.一方で、ΔWBGTは,午前~午後早期は負の値を示し,水田の方が高くなる時間帯があり,気温とWBGTで逆転が見られた。羽生のH-aでも同様傾向で,15時頃にΔTaが+1.5℃であるにもかかわらずΔWBGTは,ほぼ0であった.風通しの悪いH-bとの差では,終日ΔTa,ΔWBGTとも正で,市街地の方が高いが,夕方にかけて気温差が拡大してもWBGT差は縮小する傾向が確認された.気温は市街地の方が一日中高い一方で,WBGTは午後~夕方に気温と異なる挙動を示し,水田の湿度条件(蒸散・通風)の寄与が示唆された。暑熱緩和機能は水田と周辺の気温差を指標としたものが多かったが,湿度を含む指標であるWBGTによる熱中症リスクを把握する必要性を示唆する結果となった.