日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 639
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SNSの投稿写真を通じた観光客の視点分析
―京都市における外国人観光客の事例―
*胡 可欣
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抄録

Ⅰ 研究背景と研究目的

 政府は2030年までに訪日外国人旅行者を6000万人にするという目標を掲げており,各地域では観光地の魅力向上や多様な観光客ニーズへの対応が進められている.そのような中で課題とされる点に,従来の観光統計やアンケート調査では対象や手法の偏りなどによる限界があるという点がある.一方,近年は観光客がSNSなどのソーシャルメディアを通じて,訪問先での体験や印象を写真とともに発信するようになっている.こうした投稿は,これまでのアンケート調査などが抱える課題を補う新たな情報源として注目されており,多くの研究がすでに行われている。大崎ら(2017)写真を扱った研究でも,言語圏別(中国語圏/英語圏)に観光客の注目要素を定量比較した例は少なく,とりわけ京都を対象とした外国人観光客比較研究は十分に蓄積されていない.また,SNS画像から抽出した色彩情報を「地域の色」「企業の色」といった都市景観概念と接続して検討した事例はほとんど見当たらない.本研究では,ソーシャルメディア上の投稿写真に着目して,京都市を訪れる外国人観光客の写真記録内容を分析し,観光客の視点の解明を目指した.

Ⅱ 分析方法と分析結果

 本研究における分析対象のデータは,京都市内で撮影された外国人観光客のSNS投稿写真である.具体的には,中国語圏向けSNSの小紅書,および英語圏向けSNSのInstagramから該当する写真を取得した.そして,収集写真に対してマイクロソフトAzureのComputer Vision APIを用いて画像解析を行い,写っている物体・風景・人物などを示すコンテンツタグを自動抽出した.次に,KH Coderを用いてタグの共起ネットワークを構築し,写真内で同時に現れる要素間の関係性を可視化した.そして,英語圏ユーザーと中国語圏ユーザーの写真におけるタグ出現頻度の差異を検証した.

Ⅲ 分析結果

 分析の結果,中国語圏観光客は室内環境や飲食物など生活的な場面を多く撮影する一方,英語圏観光客は自然景観や歴史的建造物など屋外の文化的景観を多く記録していることが示唆された.中国語ユーザーは日常生活や室内環境,文化的価値のある建築物,日本の伝統文化に興味を持つ傾向が強く,部屋の室内,食文化,和服などの伝統文化を撮影する傾向が顕著である。一方,英語ユーザーは自然景観や感情表現を好む傾向がある。よく記録される要素として,山川,風景,微笑みなどが含まれる。これらの分析結果を総合すると,訪日外国人観光客の関心の特徴を多角的に把握し,観光戦略やマーケティングへの示唆を得ることが可能となる.また,京都の建物の色彩に着目した戸所(2006)が指摘した「地域の色」「企業の色」という色彩分類の観点との比較も実施できる可能性がある.その分析結果は発表時に提示し,都市景観の印象形成への色彩要素の寄与を考察する予定である.

Ⅳ むすび

 本研究は,外国人観光客のSNS投稿写真を通じて,京都の景観がどのように視覚的に捉えられているかを分析した.具体的には,画像認識・共起ネットワーク・色彩抽出といった複数のデジタル手法を組み合わせて,京都における観光的景観やイメージの特徴を明らかにした.本研究における方法は,観光地理学や都市景観研究に新たな方法論的貢献をもたらすと考える.写真という非言語的データに着目し,従来の調査では捉えにくかった観光行動の特徴を定量的に把握することも可能となるといえる.本研究の今後の展開としては,他都市や季節的変化との比較なども考えられる.

文献

戸所泰子 2006.京都市都心部の空間利用と色彩からみた都市景観.地理学評論 79(A):481-494.大崎麻子・松本健太郎・松岡秀治 2017.SNS画像と位置情報を用いた観光地の魅力分析.観光情報学会論文誌 9(1):25–33

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