主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2025年日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2025/09/20 - 2025/09/22
1.はじめに
災害発生後の被災者支援については,近年では「行政」が公的支援を,「社会福祉協議会」が災害ボランティアセンター(以下:災害VC)の運営窓口を担い,さらに,多様な社会的ニーズへの対応を行う「非営利活動組織(NPO)」を含む民間セクターをあわせた「三者連携」による体制により,早期に情報共有会議と対応が実施されるようになってきている。このうち,NPOを含む民間セクターについては,法人格を持つNPOに限らず,自主ボランティア組織や自治会,商店会,学生団体,民間企業等が参画する「多様な主体の連携」による支援取組みもみられ,これらは「市民社会組織(Civil Society Organization:通称「CSO」)として被災者支援を担う新たな形態となってきている。本研究では令和元年(2019年)台風第19号で被災した栃木県宇都宮市を事例として,「支援組織」と「被災者」の双方から検討を試み,CSOによる拠点型の支援体制の構築と推進にあたっての成果と課題を明らかにすることを目的とする。また,被災住宅の位置情報をもとに地理空間からの分析を試み,その意義についても併せて検討を行う。
2.栃木県域NPO中間支援組織による被災者支援対応
栃木県では,2015年に発生した「関東・東北豪雨」による被災を契機に県域での災害ボランティア活動の支援体制構築を目的に2018年より検討会による協議が開始された。同会により支援体制のあり方や方針の整理は行われていたものの,令和元年台風第19号(2019年)の発災時点では,策定に至っていない中,官設民営の県域NPO中間支援組織「とちぎボランティアNPOセンター(ぽぽら)」が事務局となり,発災から4日後の10月16日に「がんばろう栃木!情報共有会議」(第1回)が開催され,支援団体間の情報共有を目的として翌年2月までに計6回開催された。
3.宇都宮市社会福祉協議会・CSOによる被災者支援対応
宇都宮市の災害VCの設置・運営を担う宇都宮市社会福祉協議会は,発災翌日の2019年10月13日より始動し,資機材の準備のほか,ボランティアを受け入れるための駐車場や受付場所の検討が行われた。同月16日に同協議会建物前の敷地(まちかど広場)に災害VCが開設されたが,依頼件数に対するボランティアの受付件数が不足していたほか,市内の被災集中箇所が「東部」と「西部」に分離していたことから,同地域への対応に向けたサテライト設置の準備が進められた。また,宇都宮市におけるNPO・市民社会組織による被災者支援の対応は,「特定非営利活動法人とちぎボランティアネットワーク」が連結軸となり,同NPOに連関する複数の市民社会組織より「うつのみや暮らし復興支援センター」が組織され,自発的な炊出しや訪問支援が実施された。
4.拠点型支援・災害記録の成果と課題
災害VCの受付場所と被災地間でやや距離を要した本災害では,被災地内の民間施設等に「支援拠点」が設置されたことで支援の効率化が図られた。また,本研究で実施した被災住宅の位置情報を用いた災害記録の空間分析は,状況認識の共有等に有用性を持つ一方,研究倫理を踏まえた許諾承認のための方法論の確立も求められる。