日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S701
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キャンピングカーのトイレにおける日本と欧米との違いの考察
*高野 誠二
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抄録

1.はじめに

 日本では近年,キャンピングカーの普及が進んできている.高齢者や小さな子供,障碍や病気を抱えている人,ペットといった通常よりもより配慮が必要となる同道者であっても一緒に旅に出やすい,新たな旅の移動手段としての期待がある.また,度々の自然災害にあたって避難所における生活の質の向上の必要が指摘されてきたが,その解決策の一つとして,プライバシーが確保できるとともに外部に頼らない自己完結型の避難生活をしやすい装備として注目されてきている. 世界においてキャンピングカーの普及が進んでいるのは米国と欧州であるが,日本と大きく様子が異なるのがそのトイレである.本発表では,その要因を探る中でトイレを巡る環境の違いや,日本におけるキャンピングカーの今後を展望していく.

2.キャンピングカーのトイレの違いとその要因

 キャンピングカーに標準的にトイレが装備されているのは米国と欧州でのことである.米国での主流はブラックタンク式という固定式の大容量の汚物タンクを供う水洗トイレであり,ホースを繋げてダンプステーションにて自然流下で排水する.欧州ではカセット式という固定式の水洗トイレが主流で,汚物タンクのみ取り外して運び出して空にする.これに対して日本では,固定式トイレを設置しているのはごく少数であり,トイレが無い状態だったり,可搬式で非固定のポータブル式と呼ばれる汚物タンク直結型のトイレを,必要に応じて積載する利用形態が多い.米国では,道路が広く走りやすいため大きな車両サイズに抵抗感が薄いので十分な車内スペースを確保しやすく,広大な国土や自然公園に付属のオートキャンプ場が多く存在するために長旅となりやすい一方で,高密度での公衆トイレを期待しづらい人口密度の低い国土であることと,ブラックタンク式トイレには必須となるダンプステーションや各駐車区画にて電源と上下水接続が可能となるフルフックアップ型オートキャンプ場が既に多く存在するからこそ,ブラックタンク式へのニーズが高いと考えられる.欧州ではロングバケーションの普及が長旅へとつながり,車内設備の充実へのニーズが高くなると考えられる.これに対して日本では,道路事情から小さな車両サイズが好まれ,長期休暇も取りづらいことから比較的短期の旅となり,トイレは公衆トイレをあてにして済ませる発想が生まれる.国土交通省が認定する道の駅や,高速道路事業者が設置するSAとPAといった,統一的な指針によって設置されたトイレならばその質や使い勝手が想定しやすいことも寄与している.そして重要な要因として,トイレに関する治安の違いが挙げられる.ただでさえトイレは犯罪の場となりやすいことから,キャンピングカー旅の不慣れな旅先で夜暗い中一人で車外に出て人気の無い公衆トイレを使うことの抵抗感は,治安の良さを常にあてにできるわけではない欧米では非常に大きいと考えられる.このようにキャンピングカーのトイレ事情は,それぞれの国の地理的・社会的状況に合うものとして,違いが生じている.

3.まとめ:日本でのキャンピングカーのトイレをめぐる今後

 日本で主流のキャンピングカーは外部施設に頼ってトイレ設備を省略することで,狭い車内スペースの有効活用や低価格化を達成している.一方でこの状況はいわゆる日本のガラパゴス化の一例として,生産量の多い欧米のキャンピングカーの日本への輸出販売を今後も阻害していく可能性がある.これはつまり,大量生産でコスト安く製造される欧米のキャンピングカーへの日本の消費者からのアクセスが限られてしまうことでもある.避難所の代替機能に注目するならば,災害時には市中のトイレも被災するために外部施設のトイレに頼る発想は機能しない可能性が高く,トイレ無しのキャンピングカーが普及しても解決しかねるものとして,トイレの問題が残ることは注意を要する.

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