昨今,低緯度島嶼域で発生している海岸侵食は,温暖化をはじめとした気候変動にともなう現象というイメージが強い.しかし,温暖化が注目される以前から内陸~沿岸で行われてきた人間活動(主に開発事業)の影響にはあまり焦点があてられない傾向にある.海岸侵食には,防波堤や護岸,養浜など海岸工学的な対策の普及が進むが,そもそも島嶼それぞれの地形や気候,水文などの自然条件やこれまでの土地の利活用,総じて風土を理解した上で適切な対策を講じなければ,世界的に一様な景観を生み,かつ場当たり的な対策となってしまう.このことはSDGsの理念にもそぐわず,地域的な特性を総合的に認識する意識は学術的・社会的にも弱いと言わざるを得ない.
本発表では,海岸侵食およびその対策が社会問題となったニューカレドニアのアンスバタビーチを例に,現地での観察および歴史的な地理写真を基に海岸景観の変遷を報告し,自然・人文両地理学的な視点からの海岸景観の評価と対策の必要性を強調する.