本研究では,現在までの6次産業化研究がどのような問題意識を持って行われ,農業・農村振興における効果や課題を把握してきたのか,研究の進展を明らかにする。その上で,6次産業化研究の課題と地域振興に寄与する研究の新たな方向性を示したい。
CiNiiにおいて文献検索を行ったところ,1996年~2024年の期間で,タイトルや雑誌の特集名に「6次産業」を含む論文数は1573件であった。2010年以降論文数は増加し,ピークは2014年であった。取り組みの事例研究や報告が最も多いが,2010年代前半には,畜産業や水産業,林業における6次産業化の導入や活用,地域や農山漁村の振興における6次産業化推進の提言が比較的多くみられた。一方で,女性活動者の取り組み,起業支援やファンド活用,ブランド化の視点から6次産業化を捉えた研究等が行われてきた。6次産業化に関する研究は,農政や地域政策上の流行に伴う隆盛があり,農業に限らない様々な視点から研究や実践の提言が行われてきたと考えられる。地理学的な視点では,則藤(2008),宮地(2014),高柳(2014),川久保(2018)などがあり,原料産地と消費地の空間的距離や取引関係,土地利用や産地構造の変化に着目している。先行研究の動向から,6次産業化が注目されたことにより事例や効果について分析した研究が蓄積される一方で,事業体が立地する地域への波及効果を検証した研究は限定されている。
実際に6次産業化に取り組む事業体として,2024年9月にヒアリング調査を行った長野県信濃町「道の駅しなの」の事例を示す。ヒアリングにおける成果として,道の駅の管理主体である行政視点の考えでは,6次産業化商品の収益だけでなく,体験観光や飲食などの町内周遊を通した顧客やリピーターを重視すると聞き取ることができた。
この事例から,6次産業化に取り組む際の目的は農林水産業の振興等の原点的なものに限らないことが明らかになった。1次産業以外の業種と連携が必要になるとすれば,各主体が6次産業化に何を求めているか精査することが重要である。また,様々な主体が6次産業化への期待を抱いているならば,1事業者の経営多角化に加えて,地域内での連携に着目した6次産業化研究を行う必要があると考える。