日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 547
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東北における近世大規模用水の形成過程に関する一考察
*稲松 朋子
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抄録

農業水利の研究において,近世前期は一つの画期とされる。この時期に開削された用水の特徴として,①幕藩制的地域支配体制の形成,②戦国期以来の築城・鉱山などの土木技術の進展,などを背景として,③大河川を水源とする大規模用水施設の建設,④広域的な灌漑域をカバーする水利組織の形成,などが実現したとされる(古島など)。報告者はこれまで,和泉国日根郡の樫井川や,陸奥国磐井郡の磐井川を事例として,築造時期が近世前期に遡るとされる用水施設を取り上げ,それらの歴史的特質の考察を行ってきた。当該期の用水については,近世領主による新田開発や勧農との関わりで論じられ,その成果が強調されているようにもみえる。しかし,用水開発に関する史料は決して豊富とはいえず,用水路の形成と展開過程については,伝承や推測によるところが少なくない。近世初期の東北地方には,野谷地や畑作地帯が残されており,幕藩体制のもと,領主ならびに家臣による大規模な用水建設と耕地開発が進展したことは周知のところであるが,その詳細を知ることのできる事例は乏しい。そこで本報告では,東北地方特有の近世的用水開発の特質を考察する基礎作業として,照井堰・大江堰,鹿妻穴堰を取り上げ,それぞれの成立・展開過程を復元する。あわせて,近世絵図類や,近代以降の旧版地形図などをGISに統合し,水路景観と土地利用の対応関係を明らかにするとともに,土地改良区所蔵の各種資料や聞き取り調査,現地調査を通じて,取水施設の変遷や用水路の構造把握を行い,近世東北の大規模用水開発の特質を考察する。

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