主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2025年日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2025/09/20 - 2025/09/22
世界の地理教育の動向 日本では従来から地誌学習が重視されてきた。小学校でも1970年代はじめまでは世界地誌が学習されていた。中学校では世界を網羅する地誌学習が1970年代半ばから途絶えていたが、2010年代からは世界を網羅する世界地誌が復活した。しかし、平板に世界地誌を学ぶのではなく、中核となる事象を決め、それと関連付けての地誌、いわゆる動態地誌的学習となった。一方、アメリカやヨーロッパなどでは、主題的な地理学習が主流となり、平板な世界地誌学習は後退する。「World Geography」といった科目もあるが、主題的に世界地理を扱いことが多くなった。Regional Geographyといった地域ごとに世界地誌を学習する日本のようなスタイルは、世界的な潮流には逆行しているようにもみえる。
今回の報告 今回の本シンポジウムの報告は、アメリカ地誌がテーマであるが、大きく3つの柱から成っている。1つはどのような地理的事象を取り上げるとアメリカの地誌としての特徴がみられるかといったアメリカ地誌として取り上げる内容である。2つ目はアメリカ地誌をどのように教えたら生徒たちが理解しやすくなるかといった授業の方法論である。そして3つ目はいわゆる地誌学習がなされていないアメリカの地理教育の実態である。アメリカでは州ごとにカリキュラムが異なるので、ナショナル・スタンダードを採用する州もあれば、地理が環境科や社会科にとりこまれ、地誌はもとより地理そのものがあまり学習されない州もある。そのなかでも地理を学習している州のカリキュラムが紹介された。この3方向からのアメリカ地誌の報告を受けて、どのようなことが言えるのだろうか。
日本の世界地誌におけるアメリカ地誌学習 日本では、世界的な潮流に反して地誌学習の重要性が指摘されている。しかし、日本地誌学習は平板な地誌学習の脱却を目指し、改善され、ある意味日本独特の地誌学習を構築してきたといえるのではないだろうか。アメリカやヨーロッパの地誌学習が衰退した理由はいくつかあるだろうが、地誌を説明するだけで地誌としての知識のみを提供するだけで新たな社会的な課題に対峙できなかったこと、諸課題に対して現状を説明するだけで課題の解答をみいだせるような探究するスタイルが地誌学習では見出せなかったこと、知識を得るだけの学習方法には限界があったことなどが考えられる。 翻って日本の地誌学習をみてみると、動態地誌的学習の導入や、地理学だけでなく他学問がかかわることで新しい現代的な課題に対しても地理として対峙できること、地誌を説明するだけでなく、地理的な観点(地理的な見方・観点)に着目することで地誌学習であっても地理的な分析ができるなど、アメリカやヨーロッパ(近年ではアジア諸国でも)などの地理学習と遜色のない地誌学習が展開できるようになっている。すなわち、欧米でいわれているような地誌学習とは意味合いの異なった日本の地誌学習となっていると考えられるのである。多くの地理教育研究者が、地誌学習の重要性を説き、学習指導要領でも地誌学習が地理学習の主役であり続ける理由はここにあるといえる。 一方で「地理総合」は地誌ではなく、主題的学習であることを強調している。これは地誌を軽視しているわけではなく、中学校までの地誌学習(系統地理学習も)を基盤に主題的に展開される。すなわち、主題のもとで例としてあげられる地域は、主題にかかわって地誌的に分析される。それにより事例地域での主題に関わる課題の分析や課題解決の方策が考察される。その意味では地誌学習が基盤となり、さらに地域ごとでの解決の方策が異なるので「地理探究」で地誌としてさらにその課題解決の方策は深められる。 アメリカ地誌は中学校、高校でも取り上げられるが、小・中学校では知らない国への関心にもとづく地誌学習、高等学校では自分事、自分とかかわりあう国としての地誌学習というように、学校種があがることによる地誌学習の位置づけを明確にする必要があろう。