主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2025年日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2025/09/20 - 2025/09/22
1.アメリカ=産業?
今回の実践を組み立てるに当たって,中学校社会科地理的分野,高校地理総合,高校地理探究の教科書について,アメリカについての記述を比較してみた.そうすると,いずれもほぼ農業・鉱工業などの産業の記述で,ほかには移民や多民族社会としてのアメリカが描かれていた.高校地理総合には地誌が位置付けられていないとはいえ,これでは同じ事項を繰り返し学ぶ印象が強くなるのも当然.とすると,地誌を扱う高校地理探究では,どのように産業と移民だけでないアメリカの地誌を描けるだろうかと思案した.
そのときに,ここ数年取り組んでいる,システム思考とかかわる学習手法ミステリーが役立つのではないかと考えた.しかも,生徒にミステリーの情報カードを作成させてみたら,ここまで培われた生徒のアメリカに関する認識も反映できる.ということで,タイトルに示したような授業を構想した.
2.生徒とミステリーをつくってみる
対象は3学年地理探究選択者28名.2年次からの継続履修で,4人×7班に分けて活動している.2025年度に実施の3年次の授業は系統地理的分野の衣食住の単元から始まり,6月中旬の定期考査までに地誌的分野の東アジア・東南アジアの単元まで終えている.また,8月末の西陵祭で,地誌的分野の授業の一環として世界の諸地域のうち7か所を各班に割り振り,教科書の内容をまとめたものをもとに問いおよび仮説を立てて,文献等を用いて調査したものをまとめてポスターにしたものを展示する予定になっている.アングロアメリカ担当の班は「なぜ西経100°で大きく地域が分かれているのか」という問いを立てて調査を進めている.
9月中旬の定期考査では,アングロアメリカ・ラテンアメリカ・ヨーロッパ・ロシアを考査範囲として,調査活動と並行して授業を進めている.そこで,アングロアメリカの授業のなかで「アメリカ合衆国」を扱おうと考え,最初の授業では,「アメリカ合衆国」を中心にしたウェビングを行った.20分ほど,1人ずつ黒板に書かせるのを5周行って黒板がいっぱいになった.このウェビングをもとに,発表者が「スポーツ・エンターテインメント」,「冷戦」,「食と産業」,「経済」,「移民」,「日本」という6つのテーマを各班に与えてさらに中心となる事象を考えさせ,ウェビングを行わせた.その後,生徒はそのウェビングから,テーマに即して最も重要と思われる語句を2つ選び,それぞれの「ファクトカード」をつくった.これが,ミステリーカードのもとになるという前提だ.さらに,そこに2024年末-25年始で発表者が訪れたカリフォルニアでの見聞を加えたミステリーカードを作成・実践し,振り返る予定である.ミステリーの実践については当日発表する.
3.地誌学習におけるミステリー
地誌学習とはどのような学習内容・方法を指すのか.中学校社会科地理的分野では,各地域区分をある視点に着目して地域性を見いだす「動態地誌」的な扱い方をしている.高校地理探究では,網羅的な「静態地誌」的な扱い方をする場合,中学校のような「動態地誌」的な扱い方をする場合,特定の国を取り上げる「サンプルスタディ」的な扱い方をする場合,あるいは異なる地域性を持つ地域同士を「比較地誌」的な扱い方をする場合がみられる.とはいえ,教科書記述の多くは動態地誌的であり,しかも前述のようにアメリカと言えば産業というように,中高を通じて視点が固定化されている.まさに地誌学習を通じてステロタイプを生み出しかねない.そのステロタイプを超え,また歴史・公民分野の既習事項も踏まえ,アメリカの複雑な地誌を複雑なまま可視化し俯瞰することができ,さらに問いの設定によって対象地域を静態地誌的にも動態地誌的にもとらえることができるのが,学習手法ミステリーの一つの強みだと考えている.