日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S302
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シンガポールの地理教育
~環境教育から持続可能性教育へ~
*タン ギョク・チン・アイビー
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抄録

シンガポールでは,地理は学校における主要な人文科学科目の一つである。過去数十年間にわたり,地理のカリキュラムは複数回の全国的なカリキュラム改訂を経てきた。この発表では,地理のカリキュラムの焦点が過去数十年間でどのように変化してきたか,およびシンガポールにおける環境教育と持続可能性教育における地理の重要な役割について議論する。

 1990年代はシンガポールにおける環境管理の重要な始まりを刻むこととなった。環境省は1992年に『シンガポール・グリーン・プラン – モデル・グリーン・シティへの道』を発表した。グリーン・プランのビジョンは,2000年までにシンガポールをモデル・グリーン・シティにすることであり,1992年にリオデジャネイロで開催された第1回国際地球サミットで発表された。グリーン・プラン(1992年)では,環境教育が環境に積極的な社会を築く上で不可欠な要素であると指摘された。知識と意識を通じて,ポジティブな価値観と態度が育まれる。これらのポジティブな価値観と態度は,生活様式や消費習慣の調整を促す行動につながる。以来,学校は生徒の環境意識の基盤を築く責任を負うようになった。環境教育は独立した科目として教えられることはなかったが,既存の正式な学校カリキュラムの関連科目(地理や科学など)に組み込まれていた。

 その結果,単語「環境」が中学校の地理教育課程に導入され,使用されるようになった。地球規模の気候変動は,教科書で初めて言及された。温室効果の「強化」,オゾン層の破壊,地球規模の気候変動とその影響(海面上昇を含む)が議論された。温室効果ガスの削減,グリーン技術の活用,法の執行,生活様式の変更など,環境保全のための戦略が組み込まれた。最終的なメッセージは,環境保全は共有された責任であり,個人,国家,国際レベルでの協調した努力が必要であるというものであった。

 21世紀の初頭,シンガポールの経済発展の過程において,環境の持続可能性を促進するため,保全とクリーンテクノロジーに重点を置く「第2次グリーン計画2012(2002年発表)」が策定された。これにより,地理教育課程には「持続可能な開発のための教育(ESD)」の要素が組み込まれた。学校に通う生徒たちは,環境の質に対する感謝の念と責任感,および持続可能な開発の重要性を理解することとなった。同時に,この期間中に「思考する学校,学ぶ国家」(TSLN)というスローガンが導入され,学校の学習環境全体を変革する取り組みが開始された。その一環として,すべての教科における知識の量を削減し,教師が生徒の思考能力の育成に時間を割くことができるようにするといった具体的な提言が行われた。

 2013年に,教育と学習における探究型アプローチの採用に向けた適切なパラダイムシフトが起こった。教師は,教育資料を活用して生徒が自身の解釈と分析を通じて学習内容を理解するのを支援する,より生徒中心の探究型アプローチを採用するよう奨励された。その目的は,単なる情報の暗記から脱却し,多様な情報源から情報を抽出し応用することで,新たな知識と理解を構築することであった。地理のフィールドワークにおいても,生徒自身で仮説を立て,データを収集し,実際の地理的課題を探究する必要があった。

 最後に,最新の「グリーン・プラン2030」(2021年発表)は,シンガポールにおける気候変動対策に向けた国民的な持続可能性運動であり,共同行動を促進する目的で策定された。この共同行動の一環として,学校は持続可能性に関するカリキュラムとプログラムをさらに強化する必要がある。その結果,最新の地理カリキュラム(2021~2023年)の主要なテーマは「持続可能性」となっている。新しい地理カリキュラムは,生徒が持続可能性に関連する課題について,グローバルな視点とローカルな視点の両方から理解できるようにすることを目的としている。

 本研究は「社会正義を志向する社会科教育の創造:学校教師との協働的授業開発とアジアへの普及」JSPS科研(基盤B)23K20706(研究代表者:伊藤直之)の成果である。

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