主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2025年日本地理学会春季学術大会
開催日: 2025/03/19 - 2025/03/21
1.日本地理学会設立前の地理学と地理教育との関係 学校教育で地理が始められるのは、1872年からであり、同年9月には『小学教則』が定められ、地理教育の内容が規定された。そのため、教師を養成するための師範学校などでも地理学が重視された。専門の地理学者の養成に先んじて、地理学が教員養成とのかかわりで師範学校において開講されたいたことを鑑みれば、地理学と地理教育との関連は強いということができよう。日本地理学会設立以前から、地理学と地理教育との関係は強く、地理教育者からも地理学研究や他の分野で活躍する人々がみられたのである。地理教育は、学習内容としては地理学の成果や地理学の観点によりながら、教育学、心理学などの成果による子どもの学習能力の発展性などをふまえて展開される。学校教育の地理は、長く暗記科目と批判されてきたが、他方で、1880年代にはペスタロッチ主義の教育に基づいた、子どもによる観察と体験を基調にした実物直観の教授法が強調され、さらに明治中期以降「地人相関」などの地理学の研究成果が小学校の「地理」の授業に組み込まれた。このように、地理教育は大正期から昭和初期にかけて、地理学研究を反映した学習内容においても、教育学的な学習方法(教授法)においても大きな変革期となり、両者が絡み合いながら大きな変革を遂げたのである。
2.地理教育における日本地理学会の役割 第二次世界大戦後、地理の学習内容は、社会科に含まれるが、高等学校では「人文地理」が科目として存在した。こうしたなか、1958年改訂予定の学習指導要領では、高等学校の「人文地理」の単位数が削減されるとの情報を得て、日本地理学会では、学習指導要領の改訂にともない要望書をだし、文部省などに地理の単位数を減らさないように強く陳情し、1958・60年公示の学校学習指導要領では地理の選択科目として単位数の減少はほぼなかった。地理だけでなく、学校教育に大きな変革をもたらしたのが、1989年の学習指導要領の改訂である。高等学校では社会科が解体し、地理歴史科として地理Aと、地理Bの2科目が設定され、知識の習得だけでなく、地理的な見方・考え方の育成が目指されていたが、いずれの科目も選択科目であった。日本地理学会では、地理を世界史と同等に扱うことを強く要望していたが受け入れられなかった。日本地理学会が地理教育の課題で組織的な取り組みを始めたのは1983年の地理教育の歩み刊行委員会からであり、地理が高等学校の必履修科目から外れたことなどから、ロビー活動などさらなる組織的な取り組みが必要という見解から常設の地理教育専門員会が設けられたのは1998年のことであった。地理教育専門委員会では、高校生などを対象とした地理的知識の調査を2005年、2008年、2014年を行い、高校生の日本や世界の基礎的知識が十分でないことを指摘した。こうした調査に加え、諸外国の地理教育の研究に基づき日本で地理教育を推進する国際的意義を明確にしたうえで、学術会議地理教育分科会の学校地理教育小委員会と共同で「地理基礎」の学習内容案を作成し、2011年の提言に反映させてきた。日本地理学会としても高等学校での地理の必履修化については強くサポートし、2010年には日本地理学会が主導して地理学関連団体で高等学校における地理歴史科の履修形態の改善に関する要請を文部科学大臣宛に作成し、陳情した。さらには、2014年には高等学校地理教育検討タクスフォースを立ち上げ、地理の必履修化に向けた折衝を歴史関係者や文部科学省と行い、地理の必履修化実現のための推進役となった。
3.日本地理学会における地理教育の意義と展望 日本地理学会には、地理学研究者のみならず、初等、中等教育の地理教員、官公庁・民間の地理および地理教育関係者から構成され、他の学会ではみられない専門学問と学校教育との強い連携ができている。こうした日本地理学会は、持続可能な社会、Well-beingの達成において必要不可欠な地理教育を推進できる学術団体として今後も期待できよう。