主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2025年日本地理学会春季学術大会
開催日: 2025/03/19 - 2025/03/21
はじめに
温暖化をはじめとする気候変化に起因して各地で植生変化が生じており,その動態解明は焦眉の急である.他方,日本の高山域における気候変化と植生動態の関係は十分に明らかになっておらず,植生変化のプロセスや,規定要因等を明らかにしていく必要がある.富士山の北西斜面にある七太郎尾根は,約25年前に植生調査が行われ,樹木限界付近にはカラマツを主な構成種とするパッチが点在していることが明らかになっている(Oka and Kanno 2012).本研究は,同一地域を対象として高精細な地表面・植生情報を取得・解析し,新旧の植生調査結果を援用することで,富士山北西斜面の樹木限界の規定要因を検討する.
方法
七太郎尾根の標高2,650mから3,000mにかけての斜面で,2024年9月に現地調査を実施した.調査では尾根上に調査区を設定し,出現したカラマツの樹高や周辺の出現種などを記載した.また,同時期にUAVによる高精細地表面・植生情報の取得も行った.具体的には,UAV‐LiDARで3次元点群データを取得し,植生を除去した数値地形モデル(DTM)などを作成した.また,別途撮影したマルチスペクトル画像からオルソモザイク画像を作成し,正規化植生指数(NDVI)を算出した.
結果と考察
調査地では,標高2,710m付近に位置する森林限界よりも上部において,標高が高くなるほどNDVIが小さくなるという明瞭な関係が認められた.また,森林限界よりも上部の植生はパッチ状に点在しており,最も高い場所に成立するカラマツのパッチは標高2,950mにみられた.先行研究と比較すると,25年間で50m上昇していることが明らかとなった.植生のパッチは,周氷河作用に起因する微地形と対応していた.植被と微地形の関係を,DTMから算出した傾斜とNDVIから検討した結果,傾斜が大きい場所にパッチが分布する傾向が認められ,階状土の急傾斜部に植生が生育していることが示された.樹木限界付近に分布する階状土は標高2,950mよりも上部においては形態が不明瞭となるため,こうした微地形の分布や有無が,今後の七太郎尾根の植生動態を規定すると考えられる.