主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2025年日本地理学会春季学術大会
開催日: 2025/03/19 - 2025/03/21
Ⅰ 背景と目的
墓地は先祖祭祀を継続する場として法的,社会的に期待される施設である.一度墓地となった場所は,墓地としてその位置を占め続けることとなり,他の土地利用への転用の可能性は低い.また,経営主体は設置した墓地を継続して安定的に維持する必要があるため,墓地行政では墓地自体の構造規制,周辺環境を考慮した立地規制に加えて,経営主体の安定性や墓地の必要性を審査している.近年は一般墓が減少し使用期間に定めがある樹木葬や合葬墓が増加しているが,墓地そのものを維持し続ける必要性や空間の占有には変化はない.そのため,墓地の供給と立地の分析は重要な社会的課題である.墓地立地を巡っては,東京大都市圏内の1自治体を取り上げて民間部門の墓地立地を分析した研究や,東京23区全体に注目した立地の計量的な分析がなされてきた.一方で,墓地利用は必ずしも自治体内,東京特別区部内で完結するとは限らないため,墓地供給を分析するためにはより広域的なスケールでの立地分析が必要である.また,特に墓地供給が減少してきた2010年代以降を含む分析を通じて供給状況の変化と地域差を分析することが重要になる.
Ⅱ 分析の方法
以上から本発表では,東京大都市圏を対象に2000年代以降の民間部門(宗教法人,公益法人)の墓地供給と立地について地域差と変化を明らかにすることを目的とする.ここで,特に民間部門に着目する理由は,公共部門による墓地供給に比して規模が大きく,居住地や必要とする時期によらず,区画の利用が可能であるためである.民間部門の墓地の供給データは主として『霊園ガイド』誌を用いた.『霊園ガイド』誌は1986年から2022年まで,年3回刊行されており,首都圏の霊園,寺院墓地,納骨堂について,墓地の所在,規模,価格等を各墓地経営主体からの情報に基づき掲載する.本データは民間部門の墓地全てを網羅しているわけではなく,掲載墓地が比較的規模の大きい墓地に限られることなど一定の偏りが見られるなどの制約はあるが,現在一般に入手できる民間部門の墓地データとしては唯一のものである.本報告では,本誌のデータに基づいて各年の掲載墓地の立地変化,墓地の規模等の変化,利用可能な区画の変化,墓地価格等の変化について集計し分析する.そのうえで,東京大都市圏全体での民間部門墓地供給の変化を明らかにして考察する.
Ⅲ 結果
東京大都市圏の墓地の総区画数が増加する一方で,利用可能な区画(募集区画および空き区画の合計)は,2000年代初頭には約10万区画であったが,2022年には約4万区画まで減少している.また,区画の内訳では,経営主体の宗教法人の檀家や信徒となる必要のない「霊園」の割合が上昇している.立地に注目すると,利用可能な区画が特に郊外で増加している.具体的には,2000年代初頭には東京都心10~30km圏に多く分布する一方,2022年には都心から40km以上離れた地域が最も多い.区画使用料は寺院墓地では平均15万円程度減少する一方,宗教不問の墓地では10万円程度上昇した.区画数が増加している「霊園」で単位面積当たりの価格上昇が目立つ傾向にある.発表では,立地の空間的特性の詳細,他の価格要素や面積等の詳細な変化及び地域差に関する分析結果を示し,墓地開発の動向と併せて墓地供給の変化について議論する.