コロナ禍を契機に,学会への関わり方に変化がみられる.学会によってはWebでの発表が可能になり,現地参加は減少傾向にあるようだ.会議や情報交換も対面でなく,WebやSNSの利用を好む会員が多くなっている.ここ10年来の傾向だが,研究活動の国際化が進み,若手を中心に,欧米の学会に加入し英語で発表する研究者が増え始めている.SNSを使って親睦を深め,共同研究を行い,国際共著論文を執筆する研究者も珍しくない.投稿先は学会編集の機関誌ではなく,IFを有し査読期間が短いオープンアクセスの商業誌を選ぶケースが増えているようだ.商業誌側では,自らWebベースの国際会議を主催し,質の高い論文を集めるといった動きもみられる.既存学会への帰属意識が薄れつつあり,組織としての弱体化が懸念される.学会は今後どうあるべきか,その役割が問われる.
これからの地理学の発展に向けて
(1)自然地理学と人文地理学との連携強化:自然と人間の関わりを探究し,文理融合を旗印にする地理学にとって,人間-自然系研究の推進は戦略的にきわめて重要である.隣接諸学問に対し学術的リーダーシップの発揮が望まれる.統合的な時空間分析やモデル化を目指す地理情報科学には期待が寄せられる.とくに,自然的データと人文社会的データを位置情報を拠り所に一括管理するとともに,GISを駆使して地球・地域環境関連の汎用性の高い空間データベースを構築し,隣接諸分野に発信できれば関心を集めるだろう.専門分化が進み,ともすれば交流が希薄になりがちな人文地理学者と自然地理学者が再結集することにより,総合の科学を標榜する地理学の地位向上に寄与するに違いない.
(2) 政策や計画への積極的関与:これからの地理学は,地域形成のメカニズムやプロセスを究明するだけでなく,地域の将来像を的確に予測し,シナリオ分析を駆使しながら,計画や政策にも積極的に関与すべきであろう.GISやML(機械学習)をうまく活用すれば,空間予測にとどまらず,空間制御や空間管理の領域までが視野に入る.シミュレーション解析はその有力なツールになる.真理の探究を目指す理学的思考に社会実装を目指す工学的思考を重ね合わせ,問題解決指向の学問(実用科学)として,社会に寄与することが期待される.基礎研究に加え応用研究の推進が欠かせない.
(3)独創的研究の推進:欧米の思想・理論・方法論を単に受容するのでは,日本の地理学の将来はみえてこない.日本ならではのテーマや課題を選び,独自に開発した手法やモデルを実証研究に適用し,その成果を世界に発信することが大切である.たとえば,世界有数の変動帯に位置し,モンスーンの影響を受ける日本では,「湿潤変動帯がらみ」の研究は有望な成長領域であろう.変動地形学,小気候学・生気候学,地域生態学,水循環論,風土学,景観論,立地論,災害・復興研究などの成果を統合し体系化できれば,日本発の文理融合の新領域として,世界から注目を集めるに違いない.
(4)社会への貢献:社会の支持なしに学問は発展しない.世の中のニーズを的確に捉え,社会に役立つ研究を推し進めることが重要である.啓発活動もしかり.余暇活動重視の時代を迎え,良質の科学的地理情報が求められており,教養地理の充実が必要である.地理的現象や事象のメカニズムをわかりやすく伝えるサイエンス・コミュニケーターの育成も欠かせない.学校教育を念頭に,研究と教育を一体化するシチズンサイエンスの普及も図りたい.