主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2025年日本地理学会春季学術大会
開催日: 2025/03/19 - 2025/03/21
Ⅰ はじめに
各地域では,漫画,アニメーションといったコンテンツを,観光資源や,地域コンテンツとして多方面に活用する取り組みが行われている.他方,地域資源となりうるアニメーションを制作する拠点が地方進出への萌芽をみせ,アニメコンテンツを同一地域内で制作,活用し,地域コンテンツとして発信することが可能となりつつある.そこで,本研究では,同一地域内でアニメコンテンツの制作と活用が行われている京都府宇治市において,制作側の主体と活用を行う地域側の各主体がコンテンツにどのように関わっているかについて多角的に捉え,「アニメ聖地」におけるコンテンツの地域活用モデルを提示することを目的とする.
Ⅱ 地域におけるコンテンツ制作と活用
本研究対象とする『響け!ユーフォニアム』は,同タイトル小説の原作者の出身地である宇治市を舞台にしたアニメ作品である.インタビュー記事等から,原作者は出身地への愛着から宇治市を舞台に選定したことがわかった.また,京都文化博物館への聞き取りによると,宇治市に本社を構える京都アニメーションは,「京都を舞台にした作品を作りたい」という思いからアニメーション制作を行っていると考えられている.さらに現地調査を通して,同社は,2019年に発生した京都アニメーション放火殺人事件に対する各地からの支援をきっかけとして,地域貢献の思いをさらに強め,『響け!ユーフォニアム』を活用した取り組みのほか,宇治市をPRする動画制作に協力するなど,コンテンツ活用に積極的に取り組むようになったと考えられる. また,宇治市におけるコンテンツ活用においては,聞き取り調査により,行政をはじめ,京阪電車や商店街,大学やアニメファンなど,多様な主体が取り組みを行っていることがわかった.行政や京阪電車は,アニメ『響け!ユーフォニアム』放映当初より相互に協力する形で,アニメに登場したスポットを掲載したマップを作成している.商店街においても,アニメ制作委員会からコンテンツを活用する許可を得て,キャラクターをイメージしたコラボメニューの販売などを行い,「商店街フェスタ」を実施している.さらに,非公式の活動としては,京都文教大学において学生プロジェクトの一環としてキャラクターの誕生日会などを行っているほか,アニメファンは,有志の団体として「北宇治高校OB吹奏楽団」を結成し,宇治市にて作品にまつわる楽曲を再現する演奏会を定期的に開催している.
Ⅲ 宇治市におけるコンテンツ活用モデル
『響け!ユーフォニアム』の制作,活用に携わるそれぞれの主体は,地域への愛着や地域振興への思いを共通の価値としていた.また,コンテンツ活用を行う際には,各主体がプラットフォームのない緩いつながりを有しており,互いに協力しつつも,各主体において比較的自由な活動を行っている.さらに,制作側は地域における大学やアニメファンの非公式な取り組みに対し黙認する姿勢をみせている.制作側が地域において,コンテンツへ自発的に創造性を加えていく「ものがたり創造」(片山 2023)的な活動にある程度寛容な態度を示し,地域側の各主体が地域貢献という同じ思いの中で,コンテンツ活用を行える環境を作ることによって活動が拡大すると考えられる.
参考文献
片山明久 2023. 現代観光の質的変化と「ものがたり創造」―京都府宇治市を事例に―. コンテンツ文化史研究 14: 54-74.