主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2025年日本地理学会春季学術大会
開催日: 2025/03/19 - 2025/03/21
1.駒澤大学における外邦図の整理と研究
明治期から第二次世界大戦終結までに日本が作製したアジア太平洋地域などの地図は「外邦図」と呼ばれている。駒澤大学には、地理学科の元教員の多田文男教授より寄贈された多数の外邦図が所蔵されている。2004年より、地理学科の学生を中心に「駒澤マップアーカイブズ」というグループが組織され、所蔵外邦図の整理と研究が行なわれてきた。これまでに、所蔵外邦図の目録を発行したり(初版 2011年、第2版 2016年)、活動成果を学内外で発表してきた(高橋 2022)。今回は、新たな活動成果の一つとして、駒澤大学が所蔵する外邦図のなかで稀少価値があると考えられる地図を紹介する。
2.駒澤大学所蔵外邦図の特徴
駒澤大学には、約9,000図幅、約10,500枚の外邦図が所蔵されている。この内訳は、目録掲載の順序・地域名で、樺太、千島列島、韓国・朝鮮、台湾、満州、蒙古、北支那、南支那、インド、セイロン、仏領インドシナ、タイ、フィリピン、マレーシア、インドネシア、ニューギニア、太平洋島嶼部、オーストラリア、アリューシャン、アラスカ、海図、英国海図などである。また、地図の縮尺も250万分の1、100万分の1、75万分の1、50万分の1などの小縮尺から、5万分の1、2万5千分の1などの大縮尺まで多様である。地図の製版・発行時期も、明治期前半から第二次世界大戦期まで幅広い。これらの地図はいずれも複製ではなく、当時に印刷、発行されたもので、貴重な資料である。
3.稀少価値があると考えられる地図
国立国会図書館と東北大学外邦図デジタルアーカイブのデータベース(以下、両データベース)を検索し、本学所蔵外邦図との重複状況を調べた。その結果、次のような地図が特に稀少価値があると考えられる。
一つ目は、両データベースで検索された地図と比べて、図幅名や縮尺は同じだが測量時期や発行時期が異なる地図で、約90枚確認された。これらは、韓国・北朝鮮、満州、北支那の地形図で、縮尺は20万分の1、10万分の1、5万分の1がある。例えば、両データベースでは明治・大正期に測量、発行された地図が検索されるが、本学には昭和初期のものが所蔵されている。またはその逆で、両データベースでは昭和初期の地図が検索されるが、本学には明治期または大正期のものが所蔵されている場合もある。これらの地図を比較することにより、当該地域の明治期から昭和初期にかけての地域変容の理解が深まると考えられる。
二つ目は、両データベースで検索されない地図で、約150枚確認された。具体的には、明治・大正期に測量、発行された韓国・北朝鮮の5万分の1地形図、盗測によると考えられ幹線道路沿いの地域のみが描かれている1884(明治17)年製版の清国20万分の1地図、空中写真により測量され1920〜1921(大正9〜10)年に発行された蒙古10万分の1地形図、関東軍測量隊により測量され1936(昭和11)年製版の満州兵要20万分の1局地図、満州国治安部により製版され発行年が「康徳6年」(1939年)の満州5万分の1地形図、1938(昭和13)年発行の北支那山西省の縮製10万分の1地形図、1938年の黄河決壊事件により変化した黄河の新しい流路を書き込み1940(昭和25)年に発行された5万分の1の新黄河流域図などである。これらの地図が他機関に所蔵されていないかどうかの最終判断は、現物を実見するなどより慎重に行なわないとならないが、現段階では稀少価値が比較的高いと考えられる。
加えて、本学所蔵外邦図のなかには、寄贈者の多田文男教授が、調査・研究のために標高や地質、土地利用などについて線や数値を記入したり着色した地図が約1千枚ある。これらの地図は、多田の研究史を考察する際の貴重な資料になると考えられる。
本研究は駒澤大学応用地理研究所の研究プロジェクトの成果の一つである。本研究の資料は駒澤マップアーカイブズのメンバーの献身的な活動により得られたものである。記して感謝いたします。
参考文献:
駒澤マップアーカイブズ編 2016.『駒澤大学所蔵外邦図目録(第2版)』駒澤大学文学部地理学科・駒澤大学応用地理研究所.
高橋健太郎 2022. 駒澤大学における外邦図関連の活動の経緯と特徴. 地域学研究 35: 27-39.