日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P064
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阿寒富士西麓の熔岩地形と森林植生
*清水 長正指村 奈穂子川内 和博塚田 晴朗村田 良介
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抄録

阿寒富士山麓地域は熔岩の年代が新しく開析谷の発達が少ない。他方、複数の溶岩流のユニット側縁部の崖に囲まれた細長い凹地が多数あり、そうした凹地底に風穴の現象が生じている。今のところ熔岩トンネルは確認されていないが、粘性の低い玄武岩溶岩であることから、地下に空隙が形成されやすいことが推定される。この地域の夏季に低温となる凹地周辺で、森林を主とした植生調査を行った。標高617 m(N)と581 m(S)の2個所の凹地でコドラート(10×15m)を設定し、その範囲を記録した。それぞれ凹地底部を中心として両側の高まりまでを含めた。ベースとして、コドラート内の高低を測量し、また1~2 m間隔で地表部の地温を測定した。結果を平面図としてまとめた。右図では、Nコドラートの地形・地温と植生を分けて示した(図2)。Nコドラートの凹地は周辺の熔岩堆積面から深さ3 mの低まりであり、凹地底の地表部の地温は5℃以下で、最低で0.2℃(2024年8月25日)の低温であった。周辺の熔岩の高まりの地温は20℃ほどである。

 Nコドラートの森林植生は、高木がアカエゾマツの大径木で、その隙間に亜高木層としてやや細いトドマツが生育しており、これらはおよそ凹地周辺の高まりに分布していた。凹地の斜面はエゾイソツツジの低木が繁茂し、凹地底の風穴地にはミズゴケがマット状に認められた。林床には、コケモモがコドラート全体に疎らに見られた。以上の植生は、道東地域の風穴植生(鈴木由告ほか1987,佐藤 謙1995;ひがし大雪博物館研報)の報告と比べ、微環境に適応した植物がモザイク状に生育しており、狭い範囲内に種多様性の高い植生が成立している点において大変貴重なものといえよう。

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