主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2025年日本地理学会春季学術大会
開催日: 2025/03/19 - 2025/03/21
1. はじめに
障がい者の社会参加を考えるうえで,就労は一つのキーワードである.現行の障害者総合支援法のもとでは,訓練等給付において就労系障害福祉サービスが一つの柱となっており,就労による自立という考え方が反映されている.背景には,1980年代以降の先進諸国において,ワークフェアに焦点をあてた政策が広まってきたことが挙げられる.
こうした福祉政策における動向に加えて,労働政策の面でも,障害者雇用促進法の度重なる改正が行われてきた.法定雇用率の段階的な引き上げとともに,雇用率の算定対象となる障がいの範囲が拡大され,民間企業等での雇用や実雇用率は増加・上昇傾向にある.しかしながら,全国の雇用率未達成企業はおよそ46%(2024年)であり,福祉的就労から一般就労への移行という課題も残されている.
障がい者の就業状況や障害福祉サービスの整備状況には地域差がみられることが報告されており(宮澤編 2017: 136-143; 三原 2020),地域の実情に応じた背景や課題があるものと予想される.そこで本報告では,北海道における障がい者雇用と就労支援の事例を取り上げ,行政,支援機関,経営者団体などへの調査をもとに,地域的な雇用や就労支援の状況とその背景について考察する.
2. 障がい者雇用の状況
北海道では,2023年に自治体や公立病院などの実雇用率が民間企業の実雇用率を下回り,公的機関における障がい者雇用が低調であることがうかがえる.一方で,民間企業の実雇用率は2024年現在で2.64であり,全国値を上回っているが,道内のハローワーク管内ごとの実雇用率には幅がある.人口の少ない地域では,雇用義務の対象となる規模の企業そのものが少なく,地域での雇用機会は限られている.また,ハローワーク管内ごとの法定雇用率の達成割合は最大で25%以上の開きがみられ,ハローワーク札幌管内の達成割合が最も低いことから,比較的規模の大きな企業が集まる都市部においても,障がい者雇用の課題を抱えていることが推察される.
3. 就労支援の地域差
障がい者の就労の橋渡し役となる機関としては,ハローワークや学校からの紹介,就労系障害福祉サービスの事業所や障害者就業・生活支援センターによる支援などがある.しかしながら,道内の小規模な自治体には,これらの機関が一つも存在しないという例や,近隣の機関へのアクセスが優れないという例が多数あり,広域分散型の地域構造をもつ北海道特有の課題となっている.
上記の機関のうち,就労系障害福祉サービスの事業所は,近年全国的に増加している.北海道も同様であり,特に札幌市でその傾向が顕著である.事業所の運営主体に着目すると,札幌市の場合,営利法人が運営する事業所の割合が高いという特徴がみられた.また,これら営利法人の所在地は,道内の他市町や道外である例も複数確認された.札幌市において営利法人の参入が進むことによって,道内における就労機会や支援の地域差がさらに広がりつつある.