日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 916
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熱田面と碧海面の2分案
*小松原 琢
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抄録

はじめに 伊勢湾周辺には広範囲に海成堆積物を挟有する「中位段丘」が分布する。これは、三重県側(特に南西岸の伊勢平野南部)では2つに区分される一方、愛知県側(伊勢湾東岸・濃尾平野および三河湾沿岸)では熱田面・碧海面など一括されている。発表者は愛知県側の中位段丘も2分できないか検討した。 三重県側の中位段丘に関する既往研究三重県側の中位段丘が模式的に発達する津市久居地区では、木村(1971)や森ほか(1977)にまとめられているように、高位の海成堆積物(小野辺シルト層)を挟有する堆積段丘(久居面)と、それを削剥する薄い河成堆積物(久居礫層)によって構成される浸食性の段丘(高茶屋面)に2分される。同様の層序・段丘面区分は、鈴鹿市街(石村、2013)や桑名市街(太田・寒川、1984)でも認められる。石村(2013)は、このうち低位の面上の表土からK-Tzに由来する高温型石英を見出している。 熱田層・熱田面に関する検討熱田層・熱田面は、従来の研究(たとえば桑原ほか、1982;牧野内ほか、2013)では、下部に海成粘土層を挟有し、上部にOn-Pm-1を含む砂質堆積物を主体として側方連続性の不十分な海成粘土層を挟有する堆積物からなる一連の堆積物で構成された1つの段丘面と考えられてきた。しかし、名古屋市瑞穂区仁所町地区と、同昭和区川名地区では、他地域とは2~5 m高い段丘面が認められる。両地区における既往地盤調査ボーリング(土質工学会中部支部,1988)では、その地下に海成粘土層は認められるが、テフラ産出に関する記載は認められない。 碧海層・碧海面に関する検討碧海層・碧海面も、従来の研究(例えば森山、1996)では一括されてきたが、牧野内ほか(2003)は名鉄新安城駅北で表土中からK-Tz、Aso-4起源と考えられるクリプトテフラ粒子を得ている一方、森山ほか(1996)は知立市来迎寺地区の碧海面下13.3 mと碧南市広見町の碧海面下21.3 mからKt-zを得ている。碧海面には場所により比高3 m以下の低崖があるものの、碧海面全体に鳥趾状の旧道が発達することとも相まって地形的に2面に細分することは難しい。 最終間氷期の伊勢湾周辺のサラソスタテイック段丘愛知県側の中位段丘を意図的に再検討することによって、伊勢湾周辺の中位段丘は一般に2段(海成堆積物を挟有する堆積段丘と、その削剥後に陸成堆積物によって形成された段丘)に分けられる可能性が浮上した。両段丘は常に隣接して分布することから、一連の地形発達過程で捉えるべきものと演者は考える。最終間氷期のサラソスタテイック段丘が低崖により、ないし崖を介さずに2つに区分される事例は、東京湾周辺(木下面と姉崎面)でも認められている(たとえば徳橋。遠藤、1984)。このような現象は、単なる偶然とは考え難い。砕屑物供給量の多い場における最終間氷期の段丘形成機構を解明するうえで、1つの課題ではないだろうか。 文献土質工学会中部支部(1988):「最新名古屋地盤図」.名古屋地盤図出版会,487p.石村大輔(2013):地学雑誌、122、448-471。木村一朗(1971):竹原平一教授記念論文集,1–12。桑原 徹ほか(1982):第四紀、22、111-124。牧野内猛ほか(2013):地質学雑誌、119、335-349。牧野内猛ほか(2003):名城大学総合研究所総合学術研究論文集、2、71-77。森 一郎ほか(1977):地質論、14、185-194。森山昭雄(1996):愛知教育大学地理学報告、82,1-11。森山昭雄ほか(1996):日本第四紀学会講演要旨、26、84-85。太田陽子・寒川 旭(1984):地理評、57、237-262。徳橋秀一・遠藤秀典(1984)「姉崎地域の地質」.地質調査所,136p。

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