日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 544
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農村地域における外国人女性の定住過程と地域社会への参加
―国際結婚で山形県に移住した中国人女性を事例として―
*周 芷伊
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抄録

1.研究背景と目的

日本社会は、少子高齢化と人口減少の進行という深刻な課題に直面しており、農村地域ではこれらの影響が特に顕著である。人口流出と出生率低下により地域社会の存続が危ぶまれる中、外国人住民が地域の維持において不可欠な役割を果たすようになってきている。外国人住民は単なる労働力や人口補完の役割を担うだけではなく、地域社会の構成員として重要な存在であり、多文化共生を実現する上で欠かせない要素である(南2010)。本研究では、国際結婚をして山形県に定住した中国人女性に焦点を当て、彼女たちの定住過程と地域社会への参加について明らかにした。とりわけ、①彼女たちがどのような経緯で山形県に定住したのか、②地域社会の構成員として定住する過程でどのような困難を経験したのか、③地域社会への適応と共生のためにどのような努力を行ったのか、という点について、彼女たちとホスト社会との関係性から分析・検討した。また、中国人女性のライフコースに着目し、結婚という形で日本への定住を果たした彼女たちが、子育てや家庭生活,地域社会に主体的に関与し生活を構築することの可能性と課題についても考察したい。

2.調査内容

本研究では、山形県を調査対象地域に選定し、2023年11月16日~11月20日、2024年1月24日~2月3日、2024年9月25日~9月30日に山形県に滞在し、結婚移住を契機に来日した中国人女性4名と、彼女たちを支援するホスト社会の諸主体(行政、国際交流協会、NPO団体等)の職員6名への半構造化インタビュー、および地域活動への参与観察を通じてデータを収集した。インタビューは日本語および中国語で実施した。インタビューを通じて、調査対象者である中国人女性の来日経緯、家庭生活、地域社会との関係性、日常生活を聞き取り、彼女たちの日本における適応の努力や課題をライフストーリーとして分析した。

山形県を調査対象地域に選んだ理由としては、日本の農山漁村が直面する人口減少、少子高齢化、および各種産業の人材不足が特に顕著化している地域のひとつであるためである。加えて、かつて「農村の嫁不足」のために東アジアや東南アジアなど海外から女性を迎い入れ、国際結婚支援事業が展開された経緯をもち(竹下2016)、この際来日した女性たちが長期にわたり定住する地域であるためである。また、中国人女性に注目する理由は、2023年の出入国在留管理庁の統計データにおいては、日本にとって最大の移住者送出国である国が中国であるためであり、またその中でも約3.2%を占めてきた在留資格「日本人配偶者等」が国際結婚であるためである。また、筆者自身が日本で生活する中国人として、同じ環境にある彼女たちの生活課題や困難に対する関心をもつためである。

3.結果

調査とそこで得られたデータの分析・検討の結果、以下の知見が得られた。第一に、国と自治体の協働による定住外国人の支援の深化が求められることである。地方自治体は、日本語教育の提供や多文化交流プログラムの実施などを通じて、日本に暮らす外国人住民が地域社会に適応するための支援を行ってきた。しかし、その多くは財源や人材の不足により、ボランティアへの依存が強く、その持続可能性に課題を抱えている。また、技能実習や留学など多様な背景を持つ外国人住民の増加に伴い、そのニーズの複雑化に対応できていないことも指摘された。第二に、地域社会における他者からのサポートの重要性である。移住当初、結婚移住女性たちは、まず夫や義家族からの支援を受けながら生活の基盤を築いていく。しかし、その支援が不十分な場合、女性たちは孤立感を抱きやすく、精神的・社会的な負担を一人で抱えるリスクが高まる。一方で、子育てや就労、地域イベントへの参加を通じて築かれた地域社会との人間関係が、女性たちの生活を支える基盤となっていた。第三に、国際結婚で移住した女性たちの主体性を尊重した支援が必要とされることである。従来、外国人女性は一方的に「支援されるべき存在」として位置付けられることが多かったが、家父長制や経済的な制約から脱却するために移住を決断している主体性や戦略性、隣人や学校関係者、NPOと積極的につながる受援力を有することも明らかになった。ただし彼女たちの結婚移動は、そもそも地理的な経済格差を背景としており、また受け入れ社会での「家族主義的なケア体制」(Lee 2012)を維持する側面も浮かび上がった。今後、女性たちが安心して生活を送るための課題解決は、ホスト社会が従来抱えてきた諸問題の解決にもつながるものである。

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