主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2025年日本地理学会春季学術大会
開催日: 2025/03/19 - 2025/03/21
1.はじめに
外国の初等地理では「世界(外国)」をどのように指導・学習しようと計画しているのか.本発表では,日本の初等教育における「世界(外国)」の学習を考えるために,イギリス(イングランド)の地理科,ドイツの事実教授を対象に,「世界」の学習の位置づけを調査し,その結果を報告する.
2.海外の事例:イギリス(地理科)
イギリスの初等教育(KS 1-2)において地理は独立教科として設定され,現時点で最新版である2013年地理カリキュラム(Department for Education 2013)は,知識ベースのカリキュラムである.地理の目標として,KS1では児童の世界,UK,身近な地域,KS2においては身近な地域を越えて,UK,ヨーロッパ,南北アメリカを含んだ知識と理解を成長させることを目標としている.世界(外国)に関わる学習対象としては,「七大陸・五海洋」と「非EU国の小地域」(KS1),「世界の国,「ヨーロッパの国」,「南北アメリカ」など(KS2)が示され,位置の知識および地理的な共通点・相違点に関する場所の知識を獲得することが意図されている.なお教科書Collins Primary Geographyレベルで世界(外国)を含む地誌的内容をみた場合(阪上ほか 2016参照),世界地図(1/2巻),UK(1-6巻)ヨーロッパ,南北アメリカ,アジア・アフリカ(3-6巻)が対象として扱われ,そこでは世界像の形成を目指してサンプル・スタディを用いた学習が意図されている.
3.海外の事例:ドイツ(事実教授)
事実教授は基礎学校(小学校相当;Klassen1-4)に設置される教科で,社会・自然・技術・時間・空間の各視点から組織される統合的教科である.コンピテンシー志向のバーデン・ヴュルテンベルク州事実教授カリキュラム(Ministerium für Kultus, Jugend und Sport BW 2016)では,教育内容がプロセス関連と内容関連のコンピテンシーの相互の関係性を踏まえ提示される.内容関連コンピテンシー「空間とモビリティ」をみると,Klassen1/2では「世界(外国)」は扱わず,3/4で「ヨーロッパ,世界」が登場する.他方,統合的教科ゆえに,たとえば内容関連コンピテンシー「民主主義と社会」では「自己と他者(文化的多様性)」,「政治と時事(各国における子どもの権利)」といった「世界(外国)」に関するものが扱われている.なお教科書Nikoでは,大陸・ヨーロッパといった学習はKlasse4で設定されているが,「世界(外国)」の事例はKlasse1から「空間とモビリティ」以外の学習で登場している.
4.「世界(外国)」を“学ぶ”のか,“で”学ぶのか
イギリスの場合,「世界(外国)」を学ぶことが意識され,他方ドイツでは「世界(外国)」で学ぶということがやや優勢であるように考えられる.前者であればその先に地域認識ないしは世界像の形成,後者では文化多様性ないしは寛容性(などの価値観)の獲得が意図されるだろう.本シンポジウムでは「世界(外国)」をどのように初等教育で扱うかのかが論点となる.その際に,何のために「世界(外国)」をどう(いう順序および「を」ないしは「で」で)カリキュラムないしは授業に位置づけていくのかという点を考慮する必要がある.
文献
Department for Education. 2013. Geography programmes of study: key stages 1 and 2. National curriculum in England.
Ministerium für Kultus, Jugend und Sport BW 2016. Bildungsplan der Grundschule: Sachunterricht.
阪上弘彬ほか 2016. 小学校における地理的内容の展開とその特徴―イギリス初等地理テキストブック Collins Primary Geography の分析から―.広島大学大学院教育学研究科紀要,65(2): 45-52.