主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2025年日本地理学会春季学術大会
開催日: 2025/03/19 - 2025/03/21
1. はじめに
羽村日誌は、東京都羽村市に位置する羽村取水堰の管理・業務の記録を綴ったもので、明治から大正時代の日誌が東京都水道歴史館に所蔵されている(東京都水道局,2021)。この日誌には、毎日の天候や定時の水量等の情報も記録されている。赤坂(2019)は羽村市の市史編さんの一環で、この羽村日誌の天候記録を用いて、気象観測開始以前の羽村における気候特性を調査した。分析には、羽村日誌から抽出した1869~1924年の暖候期の毎日の天候と雪日の記録を使用した。しかし、寒候期の天候記録の抽出はなされなかったため、季節変化に関する詳細な分析は行われていない。そこで本研究は、赤坂(2019)が作成した天候記録データに寒候期の天候記録を加えることにより、羽村における1869~1924年の各天候の季節変化特性とその年々変動を明らかにすることを目的とする。
2. 使用データと解析方法
羽村日誌から寒候期(11~3月)の天候記録を新たに読み取って加え、1869~1924年の天候記録データを完成させた。ただし、1873~1878年と1907~1908年の日誌は欠損しており、その他にも部分的に天候記録のない期間を含む。まず、赤坂(2019)と同様に、天候記録を5つの天候(晴天日、雨天日、曇天日、雪日、その他)に分類し、各天候の月別及び年間日数を算出した。雨天や雪が含まれる天候記録(例えば、曇時々雨や雪のち晴)は、悪い方の天候(雨天日や雪日)に分類した。晴天と曇天が混在する天候記録(例えば、曇のち晴)は晴天日に分類した。本研究で作成した天候記録データが、羽村の気候復元に有用であるかを確認するため、各天候の月別日数割合を算出した。これを羽村市近隣のアメダス青梅(気象庁)における平年の月別天候日数(晴天及び雨天)の季節変化パターンと比較した。各天候の季節変化の年々変動を分析するために、1869~1924年の各天候の年間日数を降順に並べ替え、異常年を抽出した。異常年における各天候日数の季節変化を、平均的な季節変化パターンと比較した。
3. 結果と考察
天候記録データの月別欠測割合は最大でも12%(11~12月)であったため、分析への影響は小さいと判断し各天候の月別日数割合を算出した。晴天日数割合は冬季(12~2月)を中心に6割以上と高く、梅雨期や秋雨期に対応する6~7月と9月には3~4割と小さい(図1)。一方、雨天日数の季節変化にはこれとは逆のパターンが認められる。アメダス青梅における天候日数の季節変化と比較した結果、羽村日誌と同様のパターンを得た(図1)。相関係数は晴天・雨天共に0.97であった。そのため、羽村日誌から得た天候記録データは、羽村の気候復元に有用であると考えられる。
各天候日数の異常年を抽出した結果、年間晴天日数の下位7年が1900年代(1902~1907年、1910年)に集中していることがわかった。これらの7年の年間晴天日数は全期間平均(196日)の7~8割であった。月別晴天日数は3~10月にかけて平均を下回り、6~7月と9月は平均より6~8日少ない(図2)。平均偏差が最も大きいのは7月(−8.3日)であるため、梅雨明けが遅くなっていた可能性が高い。赤坂(2019)は、羽村日誌の7月の晴天日数から平均日最高気温を推定し、1900年代に冷夏傾向がみられることを示したが、この傾向が暖候期全体に及んでいたことが示唆される。発表では雨天日数の季節変化も含めて議論する。