日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P023
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1990年代以降の市区町村別にみた日本の軽乗用車普及の地域差
*伊藤 修一
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抄録

Ⅰ.はじめに 本研究では,1990年代以降の軽乗用車普及の地域的傾向を統計的裏付けに基づき明らかにする.自動車検査登録協力会編『自動車保有車両数』によれば,普通・小型乗用車台数は1990年代に入って漸減傾向である一方で,軽乗用車はこの時期の規格改定による大型化や女性の社会進出などと重なり,その後も毎年増加している.日本自動車工業会『軽自動車の使用実態調査報告書』によると,軽自動車は地方圏のような低密度地域で利用が高い.さらに2005年の市区町村別の人口1人当たりの自動車保有台数を分析した奥井(2008)は地方間の差を指摘している.近年の軽乗用車の増加傾向からみれば,軽乗用車のみの地域的普及の特徴を把握することの重要性は増している.なお軽自動車は2台のうち1台が普通・小型自動車との併有という特徴がある(日本自動車工業会 2023ほか).そのため,軽乗用車の普及の把握においては普通・小型自動車との関係を考慮することも必要である.

Ⅱ.分析データ 本研究で用いる軽乗用車台数は,全国軽自動車協会連合会『市区町村別軽自動車車両数』(1996年3月末版,2021年3月末版)の乗用車区分の車両数である.普通・小型乗用車は,自動車検査登録情報協会『自動車保有車両数統計書』(1996年3月末版,2021年3月末版)の普通乗用車と小型乗用車の区分の車両数の合計である.世帯保有率(以降保有率と略称)は,軽乗用車と普通・小型乗用車それぞれを世帯数で除した値である.ここでの世帯数は,総務省『国勢調査報告』(1995年,2020年)の一般世帯数である.分析対象は国内全ての市区町村であるが,市町村合併や分区などを考慮して,1824の部分地域に整理された.

Ⅲ.軽乗用車台数の分布特性 2020年の軽乗用車は22.3万台の札幌を筆頭に,広島(18.7万台),岡山(17.1万台)と政令指定都市が上位に続くように,世帯数の多さに比例して分布する(r=0.76;p<0.01,以降相関係数の有意水準は全て0.01以上).2020年の軽乗用車の分布パターンは1995年の分布パターンともよく似ているが(r=0.97),両年を比較すると,全市区町村の軽乗用車は増加しており,その伸びも一部を除き2倍を超える.そのこともあって1995年に普通・小型乗用車よりも軽乗用車が多い市区町村は無かったが,2020年には中部地方以西を中心に286市町村にまで増加した.空間的自己相関係数を参考に地域的傾向をみると,増加率が高いのは北海道や東京都区部を除いた関東大都市圏,中京大都市圏であって,900%を超えている.対照的に東北地方日本海側や,中京大都市圏と京都,福岡,熊本各市周辺などを除く中部地方以西では300%未満の市区町村が広がっている.軽乗用車の分布は普通・小型乗用車のそれとよく似ている(1995年r=0.83,2020年r=0.91).ただし普通・小型乗用車が減少した市区町村は1226もあり,うち1115では普通・小型乗用車の減少数を軽乗用車の増加数が上回り,乗用車全体の台数(軽乗用車と普通・小型乗用車との合計)は増加している.1995年と2020年との間の普通・小型乗用車の増加率は世帯増加率に比例している(r=0.71).これに対して軽乗用車の増加率と世帯増加率との相関は弱い(r=0.29).さらに軽乗用車の増加率は普通・小型乗用車が減少した市区町村の平均281%よりも,増加した598市区町村の351%のほうが高い(t=9.19;p<0.01).これらのことからは,全体としてみた場合,普通・小型自動車から軽乗用車への転換よりも,軽乗用車の併有が多いことが示唆される.

Ⅳ.軽乗用車保有率の地域特性 2020年の軽乗用車保有率は全国平均で40.8%であり,全国保有率が70.0%の普通・小型乗用車よりも普及は遅れている.それでも仙台市とその周辺を除いた東北や信越,中・四国,九州・沖縄各地方には70%を超える市区町村が集まり,中・四国地方以西で低保有率という普通・小型乗用車の分布パターンとは異なる(r=0.20).軽乗用車保有率の分布パターンは1995年に類似するが(r=0.86),保有率が低下したのは東京都千代田区と中央区,港区のみである.一方で東北,信越各地方,鳥取県,四国地方西部,九州・沖縄地方で50ポイント以上保有率が上昇している.これらは1995年時点で保有率が高い地域であって,軽乗用車の併有が進んだ地域と解釈できる.また軽乗用車増加率が高い三大都市圏縁辺地域にも50ポイント以上保有率の上昇した市町村がみられるが,保有率は総じて低くとどまる.これはこの地域の世帯数の増加率が高いことと関係しており,大都市圏と地方圏との軽乗用車の併有の傾向に違いがあることがうかがえる.

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