日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: S607
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日本のスキーリゾートにおける宿泊施設の新規立地と地域的課題
*呉羽 正昭
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抄録

1.はじめに

 日本では,1990年代初頭まで日本人スキーヤーのみを主体としたスキーツーリズムが発展した.しかし,1990年代半ば頃以降,そのスキーツーリズムの規模は急速に縮小した.その結果,スキー場や宿泊施設など,スキーリゾートに存在する諸施設の経営は大きく悪化した.

 ところが,2000年代以降,外国人スキーヤーが一部の国内スキーリゾート再生の救世主になった.ニセコや妙高赤倉,野沢温泉,八方尾根などのスキーリゾートでは,多くの外国人が長期に滞在してスノースポーツや飲食等を楽しんでいる.こうしたインバウンド観光の発展にともなって,宿泊施設の廃業などが続いていたスキーリゾートでは,さまざまな変化が生じている.とりわけ,新しいタイプの宿泊施設の大量立地が目立っている.

 本研究では,日本国内の複数のスキーリゾートにおいて生じている,外国人向け宿泊施設の新規立地およびその増加にみられる諸特徴を明らかにするとともに,それに伴う地域諸要素の変化と関係する地域課題について検討する.それを通じて,外国人対応のスキーリゾートの持続性を考える.事例地域は,北海道ニセコ地域(主に倶知安町)と長野県白馬村である.

2.外国人向け宿泊施設の新規立地

 外国人スキーヤーが訪問する国内スキーリゾートでは,長期滞在向けの宿泊施設が新規に立地してきた.それは,日本語で表現すれば「家具付き宿泊施設」で,欧米のリゾートではアパートメントApartmentと呼ばれる.日本語ではコンドミニアムと呼称されるが,本研究ではアパートメントの語を用いる.アパートメントの個々のユニットは販売され,投資対象にもなっている.開発者は,設計や開発許認可を経て,ユニットを個別に販売して収益を得る(ホテルの部屋を販売する例もある).購入者は,ある程度自由に滞在利用可能であるが,非利用時は宿泊施設として他人に貸出することもできる.後者の場合には,利用者との間に管理・宿泊斡旋会社が入る.

 ニセコ地域では,2000年代半ば以降,とくにひらふ地区において,コテージ形式のアパートメントの新規立地が著しい. 2010年前後までは,アパートメント建設者および購入者の大部分はオーストラリア人であったが,その後はその主体の中心がアジア系富裕層に移行している.ニセコ東急グランヒラフスキー場下部地点から半径約1.5kmの範囲でみると,アパートメントの立地はスキー場下部付近からその周辺部へと空間的に拡大している.

 一方白馬村では,八方尾根スキー場下部にある八方地区に隣接する和田野地区とエコーランド地区で,外国人を中心とした主体によるアパートメントの新規立地が顕著にみられた(吉沢 2022).しかし,2018年頃以降は,エコーランド地区に加えて,みそら野別荘地においても外国人名義のアパートメント立地が急速に進んでいる.

3.考察と地域的課題

 両地域ともにアパートメントの新規立地が盛んであり,それはリゾートタウンの中心部から外縁部に向かって拡大している.しかし,その立地拡大は過度であるようにも思われる.こうした拡大は,日本で増加が進む外国人スキーヤーの需要を満たすという点では経済的に重要な意味を持つ.しかし,開発の無秩序な進行という側面は否めず,環境の許容量を越えた状態であるとみることもできるだろう.また,土砂災害リスクや上下水道不足,地価上昇,駐車場不足,混雑,景観悪化などのさまざまな問題が地域社会のなかで顕在化している.それぞれの地域ではある程度の開発規制は存在するものの,リゾート全体としての開発・整備の方針や規模がほとんど考えられていない状況である.

 特定のスキーリゾートにおける開発の集中は,訪問者の集中をもたらしている.こうした状態に対してスキーリゾートの持続性には,まずは,他の国際対応スキーリゾートへの分散や棲み分けが考えられる.異なる地域的条件を有する他の地域での受け入れ推進が諸問題の解決に繋がる可能性がある.同時に,個別地域では,リゾートとしての理想像や将来像(上位計画)の設定が必要であろう.その上で,より具体的なデスティネーションマネジメントDMの方針が決められ,さまざまな関係者(既存のDMOや関連組織)を巻き込んだデスティネーションガバナンスによって合意形成がなされ,その方針が管理・運営されていくというプロセスが求められる.

文献:吉沢 直 2022. 長野県白馬村のスキーリゾートにおけるホスト化した外国人の役割─リゾート発展プロセスにおけるアクターの変遷に着目して─. 地理学評論 95: 1-24.付記:本研究はJSPS科研費23K21815,21H03717の助成を受けたものである.

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