日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: S903
会議情報

旅の記憶をジオラマ制作で表現する挑戦
*三原 昌巳
著者情報
キーワード: ジオラマ, , クラクフ, 地誌
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.発表の目的

2020年4月からの外出自粛によりミニチュア作りを始めたことを契機に立教大学のジオラマ制作サークルに参加し,初めてA4サイズのジオラマ制作に挑戦した.またサークル活動を通して,ジオラマから展開できる地理学的な発想についても議論を深めてきた(野中2020).本報告では,この試みを事例とし,旅の記憶が,どのような地理的経験に基づくものなのか,また,ジオラマ制作が地理学へどう応用可能なのかについて考察する.

2.古都クラクフの街並みの再現

ジオラマの題材は,ポーランド南部に位置し,11~16世紀にかけて500年以上,ポーランド王国の首都として栄えた古都クラクフの街並みである.筆者が2018年2月に約1週間滞在した旅を振り返ると,市中を頻度よく走っていたトラム,階段が多く構内を迂回したクラクフ中央駅,織物会館の広場に雪中,立ち尽くす観光用馬車,ベビーカーをガタガタと揺らす石畳の道のでこぼこ,などが想起された(図1).そこで,1/150スケールの鉄道模型の電車を市中トラムに見立て,街並みを自作の建物や市販品を配置することを構想した.ただし,ジオラマ制作ではA4サイズに収めるため,デフォルメされている.例えば,1/150スケールでは,長さ100mを越える織物会館はA4サイズに到底入りきらない.さらに,発表者のようなジオラマ制作の初心者からすれば,不器用な自分の手先で造作できるものしか制作できない.そこで,織物会館の装飾は,赤色系の色合いやアーチ状の形状のみを真似た.石畳の道のでこぼこは,スチレンボードにカッターで大まかに切り込みをいれて表現した.旅の醍醐味である現地の食事には,ポーランド名物のピエロギが浮かんだが,厳冬期のため,建物外での外食の風景を表現しづらく,省略した.

3.旅を語るジオラマの意義

旅の道中では,非日常の場所で見知らぬ人々と遭遇し,想定外の出来事を楽しんだり,落胆したりする.旅が終われば,その場所は再訪することは滅多になく,断片的な旅の記憶を手繰り寄せることで場所の想い出がよみがえる.ジオラマ制作者はその記憶を取捨選択し,構想を十分に練ることで,ある場所の景観を想像力と創造力をもって再編成し,A4サイズのジオラマを完成させる.完成したジオラマを地理学的な視点で評価すると,2つの特徴がある.一つ目は,地域の特徴を示すために代表的な建築物などのランドマークを入れたことである.二つ目は,デフォルメしつつも,現実の地理的空間に合わせようとしていることである.例えば,建物の前はできる限り平らにし,広場を表現しようとした.旅することで,場所の高低差や大小を細部まで感じ取っていたことに気づかされた.三原(2019)において,ポーランド旅行の経験から景観写真の活用を例にし,地誌教育では教員の体験に裏打ちされたリアリティの要素が重要と指摘している.三次元で表現されるジオラマは地理的空間をつかみやすく,横からの臨場感ある視点や,上からの鳥瞰的な視点に変えると違って見えることで,地誌の教育効果が高められる.ジオラマを活用した地誌は新たな教育方法となり得るため,今後試してみたい.

参考文献

野中健一 2020.小さなジオラマで大きな世界をつく(作・創)る.地理65(3): 4-7.

三原昌巳 2019.世界地誌に関する授業の履修学生の興味・関心と授業実践の例.人文学研究所報(神奈川大学)62: 61-68.

著者関連情報
© 2025 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top