日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P025
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2000年以降の東京郊外多摩市における住宅供給と居住動向
*坪本 裕之桑原 優太
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抄録

本研究は,2000年以降の東京郊外の多摩市を対象として,住宅供給の変化に伴う居住動向の把握を目的とする.古屋ほか(2013)は,多摩市において2000年代初頭に建設が急増した分譲マンションの入居者を対象として,購入理由や居住地移動を明らかにした.入居者は核家族世帯が主であり,マンション購入を前提として住宅を探索し,駅近かつ多摩ニュータウン(以下NT)区域からの近距離転居を指向していた.しかしながら,多摩市にはNT区域外の地区も存在し多種の住宅が供給されている.本研究では,多摩市における住宅供給と居住動向を2010年代を中心として議論し,古屋ほか(2013)が明らかにした居住動向の特性について,多様なその中での相対化も試みる.分譲マンション供給は,主に全国マンション市場動向(不動産経済研究所)から住所や販売価格等のデータをもとに地図化を行い把握した.加えて,マンションデベロッパーへの聞き取り調査を行い,東京圏および多摩市での分譲マンション供給動向,購入層の変化とその背景について訊ねた.戸建て住宅については国土交通省不動産情報ライブラリの取引データを用い,取引価格の変化にも着目した. 居住動向は,国勢調査小地域統計のデータ等を中心に把握した.

2000年代の多摩市では,分譲マンションがNT新住宅市街地開発区域の業務・商業地区や聖蹟桜ヶ丘駅周辺地区に,戸建て住宅はNT区域外の農地の多いスプロール化した地域に供給されており,対応した人口増加が確認された.持ち家取得動向は分譲マンションと戸建て住宅に分化しており,両地域で子育て世帯が増加した.後者では小学校で児童数の急増による受入困難が発生し,学区の変更がなされた.

2010年代の住宅供給と居住動向は,2000年代と同様に分譲マンションは鉄道駅を中心に立地する傾向がみられたが,2010年代は供給数が減少し価格が上昇した.東京圏では,2011年東日本大震災の復興事業に伴う資材や建設従事者の不足により建築費が高騰し,それを契機としてマンション価格が上昇した.デベロッパーは,多摩市では建設用地が限られ高価格の分譲マンションへの需要も少ないと判断している.戸建て住宅はNT区域外を中心に継続的に供給され,価格は比較的安価で維持されていた.多摩市では,マンション供給地域を中心として住宅購入層となる年齢の人口が増加し,地域別の他住民属性の差異も確認された.

2000年代初頭の居住動向は2010年以降も継続しているものの,多摩市では人口数の多い団塊ジュニア世代の住宅購入が前提であったといえる.それが過ぎつつある2010年代は,供給が量から質へ転換した分譲マンションへの入居を指向する層と,幅広い価格帯で販売される戸建て住宅を指向する層への分化がより進行している.

文献

古谷泰大・杉浦芳夫・原山道子 2013. 2000年以降の東京郊外多摩市における民間分譲マンション供給とその居住者.理論地理学ノート 17:39-66.

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