日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P082
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2020 年台風 Molave の豪雨によりベトナム中部・クアンナム省で 発生した表層崩壊の分布特性と地質との対応関係
*山口 朱莉佐藤 剛Nguyen Van ThangTran Viet尾崎 昂嗣
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抄録

近年,ベトナムでは気候変動に伴う局地的豪雨の増加により,土砂災害の発生頻度と規模が増大している。例えば中部クアンナム省の山岳域では,2020 年 10 月に発生した台風 Molaveの豪雨によって,表層崩壊が広域で発生した。同省では,この豪雨災害による死亡者数が46人,行方不明者数が17人に達した。しかしながら,当地において台風Molave に伴う豪雨を誘因として発生した崩壊の詳細な分布図は作成されていない。したがって,崩壊の分布特性や発生プロセスの議論がなされていないのが現状である。そこで,本研究は,衛星画像判読を基にベトナム中部クアンナム省南西部を対象に台風Molaveに伴う豪雨を誘因として発生した崩壊の詳細な分布図を作成し,崩壊の分布特性,地質および崩壊との対応関係を検討した。調査地域はクアンナム省南西部に位置し,起伏は東部に比べ西部で大きい。調査地域の中央部には,標高約1,600 mの山頂が連なる稜線が南北に伸びる。地質は主に白亜紀,古第三紀の花崗岩,原生代の片麻岩,結晶片岩および複合岩(花崗岩,片麻岩)である。調査は衛星画像を用いて地形判読を実施し,斜面崩壊分布図を作成した。その結果,675 km2の調査範囲内で,14,537の崩壊地を抽出した。崩壊は調査地の中央部に位置する標高約1,600 mの山頂が連なる稜線を境に西部に集中し,崩壊地面積の規模も東部と比較して大きい傾向が確認された。次に地質毎の崩壊面積率を算出した結果,花崗岩が最も高い13.03 %を示し,結晶片岩が2.95 %,片麻岩1.26 %となった。花崗岩は風化して真砂となり,豪雨によって崩壊が発生しやすいことが知られている。一方で,結晶片岩および片麻岩は高温高圧下で形成され,強固な結晶構造を持つため崩壊が発生しにくいと考えられる。崩壊地の形状を見ると,花崗岩は幅40 m以上,長さ300 m以上の崩壊が他の地質と比較して大きい。花崗岩域は,真砂からなる厚い風化帯が形成される。この基盤を覆っている真砂に雨水が浸透し,間隙水圧が上昇することで大規模な崩壊を引き起こしたと考えられる。一方,結晶片岩は,崩壊の縦横比が他の地質と比較して異なり幅が広い。これは,結晶片岩が片理面の発達によって面的に崩壊しやすいことを反映していると考えられる。片麻岩および複合岩は,幅20 m未満,長さ120 m未満と線的な形状をした崩壊が多い。これは花崗岩ほど厚い風化帯が形成されていないことが原因だと考えられる。そのため,雨水は谷に向かって浸透し,その周辺で間隙水圧が高まり谷沿いで崩壊が発生するからだと考えられる。以上,地質と崩壊との対応関係を検討した結果,降雨を誘因として発生した崩壊は地質毎に分布特性が異なる傾向が認められた。

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