日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P001
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COVID-19パンデミック以降のタイ・チェンマイにおける新興商業地区の店舗構成変化
ーニマンヘミン地区を事例としてー
*鈴木 修斗
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抄録

1. はじめに

 タイは東南アジアを代表する観光大国であり,観光業が国内総生産の20%を占める(2019年).中でも,タイ北部最大の都市チェンマイ(Chiang Mai)は,古都としての歴史的魅力や自然環境を志向するロングステイヤーやデジタルノマドの急増による都市化が進展してきた.

 しかし2020年に発生したCOVID-19のパンデミックは,チェンマイの観光業にも大きな打撃を与えた.中でも観光関連産業が集積する新興商業地区では,休業や撤退を余儀なくされる店舗が増加した.

 2025年現在,タイの国際観光はパンデミックからの復活を遂げつつある.観光地理学や都市研究の分野においても,COVID-19パンデミック以降の観光都市の動態を評価する時期が到来していると考えられる.

 本研究の目的は,COVID-19パンデミック後のタイ・チェンマイにおける新興商業地区の店舗構成の特徴とその変化を明らかにすることである.観光への依存度が高い都市の商業地区がどのように再編されてきたのかを明らかにすることで,パンデミックを経験した東南アジア観光都市の脆弱性やレジリエンスに関する議論の進展が期待できる.

2.チェンマイの観光都市化とニマンヘミン地区

 チェンマイでは,タイ政府による観光振興政策と文化・自然環境を求める国内外の観光客の増加によって観光都市化が進展してきた.特に2000年代以降は退職世代のロングステイ先,2010年代以降は「デジタルノマドの聖地」としてフリーランサーやIT起業家の長期滞在先に選ばれるなど,多様な観光客を受け入れつつ発展を遂げてきた.

 チェンマイの観光都市化は中心部に位置する旧市街の歴史遺産地区から郊外へと拡大していった.近年はチェンマイ大学の近郊に位置する新興商業地区であるニマンヘミン(Nimmanhaemin)地区の観光地化が顕著である.もともと学生街として発展してきた歴史をもつニマンヘミンには,2024年現在,カフェ,レストラン,ブティック,コワーキングスペースなどの集積がみられる.当該地区は国内外から多くの観光客を惹きつけており,本研究の対象地区としても妥当であると考えられる.

3.ニマンヘミン地区における店舗構成とその変化

 ニマンヘミン地区における現在の店舗構成を明らかにするために,2024年8月25日から8月30日にかけて土地利用調査を実施した.調査時にはiPad miniにインストールしたQField for QGISを用いてデータを収集した(合計691地点).データはQGIS上で分析を行い,店舗構成については1階部分のファサードを対象として分析した.

 2024年8月現在,ニマンヘミン地区には飲食業が180軒,サービス業が128軒,宿泊施設が74軒,その他商業施設が69軒,オフィスが7軒立地する.また住宅が64軒,駐車場が13箇所立地する.飲食業ではカフェ・コーヒーショップが64軒と約30%を占める.バー・パブが31軒,レストランが26軒立地しており,シーンガストロノミーの集積がみられる.サービス業ではマッサージ店・スパ・ネイルサロンが60軒と約50%を占める.またタイでは2022年に大麻使用と栽培が解禁された(2025年から再規制)ことから,大麻店も9軒立地する.宿泊施設としてはホテル30軒,コンドミニアム14軒などが立地する.

 最も特徴的な土地利用としては,空きテナントが69軒存在することである.これはデータを取得した691地点のうち約10%に相当する.地区内に廃墟化したテナントも散見されるなど,景観の悪化が進んでいる.Google Street Viewにより空きテナントの従前(2011〜2020年)の店舗構成を調査したところ,ホテルやホステルといった宿泊施設や,旅行代理店の廃業がその契機となっていたことが明らかとなった.このことは,観光関連産業が集積してきたニマンへミン地区が,COVID-19のパンデミック以降に十分な復活を遂げられていないことを示唆している.

 発表時にはGoogle Street Viewを用いて取得した従前の店舗構成データと比較することで,COVID-19パンデミック以降のニマンヘミン地区における店舗構成変化をさらに詳細に分析する.

※本研究はJSPS科研費(23K18738,23K28330)の助成を受けたものである.

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