主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2025年日本地理学会春季学術大会
開催日: 2025/03/19 - 2025/03/21
本研究は,女性農業者が農業,家庭,地域社会とどのように関わり,調整しながら活動しているのかを明らかにすることを目的とする.先行研究では,農村女性の役割が農業や地域社会の中で重要性を増していることが指摘されてきた.しかし,これらの研究は主に農村女性の起業や地域社会との関係に焦点を当てており,家庭内での役割分担や意思決定の非対称性といったジェンダー規範に基づく課題については十分に検討されていない.英語圏の農村地理学においてはRiley(2009)が農村のジェンダー関係は流動的であることを明らかにした。日本においても,こうしたジェンダー規範や役割の変容を考察することが求められている.本研究では,富山県砺波平野において新規就農や6次産業化に取り組む女性農業者を対象に,ライフヒストリー法を用いたインタビュー調査を実施した.その中から3名の事例を中心に分析し,女性農業者が直面する課題や役割調整の実態を明らかにした.その結果,女性農業者は地域で一般的に栽培されていない作物を導入し,それを販売することで新たな市場を開拓している例がみられた.また,地域の農産物を活用した加工食品の開発や地元消費者との関係構築を通じて農業活動を広げる試みも確認された.一方で,家庭内では家事や育児を配偶者と分担して農業を行い,地域社会では農協や町内会の会合への参加や役職の引き受けを行うなど,多様な責任を調整していることが分かった.A氏は,西洋野菜の栽培に取り組み,直売所での販売を通じて地域で評価されにくかった作物に新たな需要を創出した.B氏は有機農法を通じて構築した人間関係をもとに自身の栽培する野菜の販路の拡大を図った。C氏は,地域産の農産物を活用した加工食品を開発し,地元の消費者との結びつきを強化することで,農業活動に付加価値を与える取り組みがみられた. 女性農業者の活動は,これまでにない視点に基づく活動により農村地域の活性化に寄与する一方,ジェンダー規範に基づく課題を伴う場合が多い. 特に地域社会での「農家の嫁」としての期待が活動を制約する要因となっている.
Riley, M .2009. Bringing the ‘invisible farmer’ into sharper focus: gender relations and agricultural practices in the Peak District (UK). Gender, Place and Culture : A Journal of Feminist Geography, 16: 665-682.