主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2025年日本地理学会春季学術大会
開催日: 2025/03/19 - 2025/03/21
1. はじめに
多雪地域である日本海側に位置する飛驒山脈北部では,100以上の多年性雪渓が分布する(Higuchi and Iozawa, 1971).雪渓の面積変動は,短期の気候変動を示す指標であり(樋口,1968),気象観測に乏しい飛驒山脈において山岳環境の変化を知る重要な指標である.しかしながら,空中写真の取得頻度は少なく,継続的な雪渓の面積変動のモニタリングはおこなわれておらず,雪渓の形成環境なども明らかでない.そこで本研究では,融雪末期の10月に取得された衛星画像を用いて,2016年~2024年の雪渓ポリゴンデータを作成し,雪渓の数や面積の変化を調べた上で,流域ごとに多変量クラスター解析をおこない,積雪深が大きい流域や雪渓越年面積が大きい流域の特徴を調べた.
2. 方法
雪渓形成の環境条件を調べるため,主稜線から東側に下流1.5km地点を流出点とした流域ポリゴンを作成し,別々の要素で2回の多変量クラスター分析をおこなった.1回目は谷底の平均積雪深(国土地理院DTMと24年4月のDSMの標高差)・流域の平均傾斜(雪崩の多さを評価)・解析積雪深(降雪量の違いを評価)・谷底の平均傾斜(雪崩堆積物のとどまりやすさを評価)の環境要素を使用した.2回目は平均越年面積(10月のPlanetScope衛星画像から取得した雪渓ポリゴンの9年間平均)・谷底の平均積雪深・谷底平均標高(気温による融解の評価)・谷底平均日射量(日射による融解を評価)・TPI50m(谷底平均標高から周辺50mの平均標高を引いた値で谷底の形状の指標)の環境要素を使用した.
3.結果
1回目の多変量クラスター分析をおこなった結果,5つのクラスターに分類できた(図1).クラスター1は谷底の平均積雪深が二番目に大きく,解析積雪深の値が特に大きかった.クラスター2はすべての要素で比較的小さい値だった.クラスター3は谷底の平均積雪深が最も大きく,流域の平均傾斜は最も高かった.クラスター4は谷底の平均積雪深が最も小さく,流域と谷底の平均傾斜がともに最も小さかった.クラスター5は谷底の積雪深が比較的小さく,谷底の平均傾斜が最も急であった.図1 1回目の多変量クラスター分析の各クラスターの標準得点 2回目の多変量クラスター分析をおこなった結果,5つのクラスターに分類できた.クラスター1は平均越年面積と谷底の平均積雪深が小さい値であった,クラスター2は平均越年面積と谷底の平均積雪深が最も大きい値であった.クラスター3は平均越年面積と谷底の平均積雪深が比較的小さく,谷底の平均標高がもっと用い値であった.クラスター4は平均越年面積が比較的小さいが,谷底の平均積雪深は二番目に大きく,TPI50mの値が最も小さい値であった.クラスター5は平均越年面積と谷底の平均積雪深が最も小さく,谷底の平均標高と谷底の平均日射量,TPI50mの値が最も大きい値だった.
4.考察
1つ目の多変量クラスター分析の結果において,クラスター1は降雪量が非常に多く,ある程度の雪崩涵養と緩い谷底の傾斜によって谷底の積雪深が大きくなっていると考えられる.クラスター3は多量の雪崩涵養により,谷底の平均積雪深が大きくなっていると考えられる.クラスター4は降雪量がある程度多いが,雪崩による涵養が少なく,谷底の平均積雪深が小さくなっていると考えられる. 2つ目の多変量クラスター分析の結果において,谷底の平均積雪深が小さい流域は平均越年面積も小さいクラスターが多いが(クラスター1・3・5),クラスター4は谷底の平均積雪深が2番目に大きいが平均越年面積は0より低い値である.これは,TPI50mの値が低く,非常に閉じた地形であるために,平均越年面積が小さくなったものだと考えられる.クラスター2は積雪深の値が大きいため,越年面積も大きいと考えられる. 2回の多変量クラスター分析の結果から,積雪深が大きい流域は平均傾斜が急で雪崩による涵養が非常に大きいものと,多量の降雪量がある上で,ある程度の雪崩涵養がある流域の2種類があると考えられ,流域の傾斜が急であっても,谷底の傾斜が急な場合は積雪深が大きくはならないことがわかった.