日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: S101
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日本地理学会理事会主催公開シンポジウム「日本地理学会百年の歩みとこれから」趣旨説明
*鈴木 康弘
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抄録

シンポジウムの趣旨

 日本地理学会は1925年2月11日に創設され、今年で百年を迎える。百年前の日本は関東大震災から立ち直りかけ、大正デモクラシーの最中、普通選挙法が成立しラジオ放送も始まった。国際的な学術交流も進み、創設者である東京帝国大学の山崎直方会員は、1922年に発足した国際地理学連合(IGU)の副会長も務めていた。

 当初は学問として地理学を純粋に追究することを目ざし、その後、昭和初期の戦時下の国策をめぐる苦難な状況や、戦後の高度経済成長、さらに平成・令和へと続くグローバル化の中で、多くの国家的・社会的課題にも直面した。近年は日本の地域構造の変化や、地球規模の諸課題への対応も求められるようになっている。

 学校教育においては明治期以来、地理は郷土や国際理解のための主要科目として位置づけた。戦後は社会科に組み入れられ、高等学校で履修者が減る時期もあったが、2022年からは地理総合が再び必履修になった。近年は国際関係や文化多様性の理解に加え、地球の持続可能性や防災に関する教育も担うようになった。

 21世紀を迎えて学会の社会的責任が求められる中、2005年には文部科学省所管の社団法人、2012年には内閣府所管の公益社団法人となり、学術団体として公的使命を果たせる環境整備が進んだ。

 日本地理学会は時代ごとの諸課題へ対応しつつ、地理学の本質を問い続けた。これからも伝統を受け継ぎ、新たなビジョンをもって「地理学の進歩普及を図り,もってわが国の学術の発展と科学技術の振興」ならびに「社会の発展に資する」ことを目指すことになる。また公益社団法人として、持続可能な社会づくりのための社会連携や、学校や社会における地理教育、国際的な研究協力等の使命を果たしていく。これまで以上に国内外や学会内外の多様な意見に耳を傾け、より開かれた学会を目指す必要がある。

 本シンポジウムにおいては日本地理学会の百年を振り返るとともに、今後の取り組みの重要性を再確認したい。

日本地理学会百年の特徴

1)学術論文誌「地理学評論」の継続刊行

 学会設立の当初の目的は学会誌刊行にあった。学術誌「地理学評論」は、第2次大戦直後の1946年を除いて毎年刊行され続けた。会員の尽力に加え、古今書院によるところが大きい。1984年からは欧文誌Geographical Review of Japan, Series B、2006年からは社会的貢献を果たすためにE-journal GEOの刊行が始まった。

(2) 学問および学会の中立性

 社会情勢が大きく変化する中で、当学会は学問の中立性を守った。とくに戦時国家体制においては地理学と政治の関係が問われたが、個人の研究の自由を尊重し、時局への過度な迎合を避け、地政学を推進することもなかった。戦後は資源調査や開発計画などに協力し、持続可能な社会実現に向けて発言した。また、学術および地理教育のあり方に対しても地理学の中立的立場から発信を続けた。

(3) 民主的運営

 設立当初は執行部が学会を強力に牽引したが、1929年には執行部を選挙で選ぶことが会則に記された。戦争による混乱が収まる1947年までは会長が評議員を指名する慣例が残ったものの、1950年からは新会則による執行部選挙が行われるようになり、民主的運営体制が確立して今日に至る。学会50年史、75年史、百年史には、早い段階から会員からの提案が体制を変えたことが記されている。

(4) 社会への発信

 資源開発、地域開発、国土・地域計画、都市計画、環境問題、自然災害対策、地理教育政策等について、政府から協力要請がなされ、対応方針が、様々な機会に議論された。行政機関や社会に対する多くの提言がなされ、報道を通じた社会発信も活発になった。

(5) 国際連携

 1922年に国際地理学連合(IGU)が発足し、その山崎直方副会長が日本地理学会を設立したため、IGUを通じた国際連携が当初から意図されていた。以来4年ごとのIGU総会ならびに国際地理学会議(IGC)に日本地理学会会員が参加し続けた。1957年にはIGU地域会議、1980年には東京で第15回IGU総会(第24回IGC)を誘致し、さらに、2013年には京都でIGC地域会議、2023年には大阪でIGCテーマ会議を開催した。この間、多田文夫会員、木内信蔵会員、吉野正敏会員、田邉 裕会員が副会長を務めた。また氷見山幸夫会員は2010年から副会長、2016年から会長を務めた。また多くの会員がIGU賞を受賞した。IGU以外にも国際地図学会議、国際第四紀学会、国際地形学会議、アジア地理学会等との関係が深く、科研費の国際学術調査などにより国際共同研究を積極的に推進してきた。なお、国際連携の一層の推進のため、百周年を機に学会英語名称の変更が予定されている。

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