日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 906
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インドネシア・リアウ州北部沿岸地域における陸化干潟形成による生業への影響
*吉位 優作
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抄録

1. はじめに

 沿岸低湿地は炭素貯蔵や隔離、沿岸保護、漁業資源の増加などの恩恵をもたらす人類にとって非常に重要な存在である。沿岸低湿地の海岸侵食は広く報告されているが、局所的な規模では堆積物の蓄積、内陸への移動、再分配によって面積が拡大することが知られている。インドネシア国内で最も陸域が拡大している地域はスマトラ島リアウ州であることが報告されているが、リアウ州内で具体的にどの地域が堆積しているのかについては、これまで十分に明らかにされていない。また、堆積による環境の変化が地域住民にどのように影響を与えるのかは未だ未解明である。

 そこで本研究では陸化干潟形成による海岸線の時空間変化をまず把握する。その上で堆積による海岸線変化が地域住民社会へ及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。

2. 研究方法

 本研究では、海岸線の時空間的な変化を把握するため、古地図と衛星画像を用いて96年間の海岸線変化を解析した。さらに、1987年から2024年までのLandsat衛星画像(計31シーン)を取得し、長期的な変化を解析した。衛星画像解析では、水域と陸域を明瞭に区別するために、NDWI(Normalized Difference Water Index)を用いて水域を強調し、エッジ検出を実施することで、対象期間の海岸線を半自動的に抽出した。また、2024年8月から10月にかけて現地調査を行い、新規陸地の土地利用状況を確認するとともに、地方行政機関や地域住民への聞き取り調査を実施した。

3. 結果

 本研究の結果、対象地域は1930年代から一貫して堆積が進行している地域であることが明らかになった。また、衛星画像を使用した37年間の定量的な海岸線変化による結果を図1に示す。1987年から2024年までの間に合計170.4㎢の陸域が新たに形成されたことがわかった。特に、1995年から2000年の5年間で最も顕著な堆積が発生し、この期間中に98.0km²の陸域が拡大した。さらに、1987年時点では海に面していた2つの村(SN村およびSB村)では、2024年までの37年間で直線距離にして2.8km(SN村)、1.8km(SB村)の海岸線変化があったことが明らかになった。

 陸化干潟形成によって新たに堆積した土地のほとんどはマングローブ湿地帯となっている。現地調査の結果、現在はこの土地でアブラヤシ農園が行われていることがわかった。また、SN村とSB村のうち、SB村における陸化干潟形成による漁業への影響を聞き取り調査により明らかにした。結果として、漁獲量の減少、漁獲物の小型化、漁場が沖合に移動することによる燃料代の増加、漁法の変化がみられた。

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