日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P076
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LiDAR DEMを用いた中世山城の築造による地形改変の分析
*八反地 剛照井 里紗梶田 大陽小倉 拓郎猪股 雅美
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キーワード: 曲率, 傾斜, 人工改変地形
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抄録

現代の日本には宅地・農地の造成などを目的とした大規模な人工改変地形が多くみられるが,たたら製鉄に伴う山砂利採取など近代以前の地形改変も残されている.しかし,現代の地形改変に比べると過去の地形改変についての研究は十分ではない.最近,中世山城築造による過去の地形改変が斜面崩壊の発生に影響を及ぼす可能性が指摘されている(猪股, 2023; Hattanji et al., 2024).日本国内には平野部を含めて3万ヶ所以上の中世城館跡が存在するが,それらの地形的特徴についての理解はまだ十分ではない.本研究では,航空LiDARデータを用いた地形分析により,中世山城の築造による人工改変地形の特徴を明らかにする. 対象地域は広島県南部である.選定基準(現代の地形改変を受けていない花崗岩の山地・丘陵地に立地,広島県教育委員会(1993〜1996)の調査記録の存在,山頂を含み十分な大きさを有する城域,航空レーザ測量データを利用可能)を満たす39ヶ所の山城を選定した.まず,航空レーザ測量データをもとに1 m DEMを作成し,それに基づき傾斜量図・等高線図を作成した.これらのDEMと報告書の縄張り図を用いて,山城を構成する曲輪(平坦面)と切岸(急崖)を判読し,地形改変領域(曲輪から20 mの範囲)のポリゴンフィーチャを作成した.また,それぞれの山城の近隣に位置し,標高がほぼ等しく,地形改変を受けていない山頂部(以下,自然尾根)を39ヶ所選定し,それらの尾根線から20 mの範囲のポリゴンフィーチャを作成した.山城と自然尾根の領域それぞれについて,傾斜と曲率の頻度を取得した.なお,曲率の分析には露岩などの細かい地形が反映されにくい5 m DEMを用いた.解析の結果,山城は自然尾根に比べて,傾斜の標準偏差と断面曲率の標準偏差が大きい傾向があった.一方,平面曲率の頻度分布にはあまり顕著な違いが見られなかった.そこで,傾斜量の標準偏差(SDS)と断面曲率の標準偏差(SDPrC)の2つの指標から,山城(改変地形)と非改変地形の判別を試みた.解析から得られた閾値(SDS = 10, SDPrC = 3.5)に基づき,尾根地形をA・B・Cの3区分に分類した(図1).その結果,対象の山城39か所のうち28か所(72%)がAに,自然尾根39か所のうち25か所(64%)がCに分類された.また,対象の山城には,大名が拠点として使用し大規模な地形改変が行われた城のほか,陣として一時的に利用されただけの事例も含まれており,それらの違いが地形指標の大小にも影響していると考えられる.

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