農家による観光者向けの宿泊,食事,農産加工品,レクリエーションの販売等を行う施設として法的に規定されるイタリアのアグリツーリズモ(以下,ATと略す)は,ルーラルツーリズムの一形態として目覚ましい発展を遂げている.本研究では,イタリア全土のコムーネ(基礎自治体)を対象とした統計データを変数として,GISによる地図化と解析を行って集積地域を特定すると同時に,クラスター分析で地域類型化をすることでマクロスケールのATの集積構造の解明を試みた.分析の結果,宿泊サービスを提供するATは全コムーネの7,902ヶ所のうち,3,990ヶ所(50.5%)に立地し,AT軒数は北部で南チロル集積圏,ヴェローナ集積圏,中部でマレンマ地方集積圏,シエナ=ペルージア集積圏,南部でレッチェ集積圏,島嶼ではシラクーザ集積圏で広域集積を確認でき,10年間の変動値から地特定地域への集中化が読み取れた.ATが立地する3,990ヶ所のコムーネを対象にしたクラスター分析の結果,類型Ⅰ(条件不利・AT集積地域)40ヶ所,類型Ⅱ(条件不利・AT準集積地域)240ヶ所,類型Ⅲ(山岳部・AT非集積地域)818ヶ所,類型Ⅳ(丘陵部・AT非集積地域)1,893ヶ所,類型Ⅴ(中核都市・AT非集積地域)92ヶ所,類型Ⅵ(都市・AT非集積地域)907ヶ所の6つに類型区分ができた.ATの立地条件には,一定の観光需要がある観光資源との近接性が認められる一方で,類型Ⅴに該当する中核都市や類型Ⅲのようにアルプス,アペニン山脈,沿岸丘陵など農地が少ない山岳・丘陵部ではATが集積しにくい傾向がある.またローマやミラノなどの大都市近郊というよりは,類型Ⅰや類型Ⅱのように周縁の山岳部や内陸丘陵部などの条件不利地域にATは集積している傾向がある.この背景として,農地が集約化された平野部とは異なり,農業経営の多角化が求められることが挙げられる.加えてAT集積地域は,農村や山岳の景観が優れた地域,PDO/PGIなどの地理的表示産品の生産が活発な地域である傾向が読み取れる.また,地域類型区分の地図から,ATの最集積地域を中心に準集積地域が取り囲んでいることから,ATの集積には階層的な空間構造が読み取れる.