日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 811
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タイ・バンコクの都市化が雲量に与える影響
*鈴木 信康日下 博幸
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抄録

1. はじめに

 都市化によって都市上空の雲量が周辺地域より多くなることが報告されている.これまでに中緯度の大都市を対象とした研究では,夏季に都市上空で雲が発生しやすくなることが示されている(例えばInoue and Kimura, 2004; Theeuwes et al., 2019; 2022).一方で,低緯度の東南アジアの大都市を対象とした研究は,Syed Mahbar and Kusaka (2024)のみであり,十分なコンセンサスが得られていない.雲は対流や降水と関係しており,都市化が著しい東南アジアの都市が雲に与える影響を調査することは重要である.本研究では,東南アジアのメガシティであるタイ・バンコク首都圏の都市と周辺地域の雲量の特徴および都市の影響を明らかにすることを目的とする.

2. データと手法

 雲の発生頻度を調べるために,1時間ごとの静止気象衛星ひまわり8/9号の雲マスクデータを使用した.土地利用の判別には,タイ土地開発局が作成した2020年の土地利用状況図を用いた.2016年から2023年の日中(8:00〜16:00LT)の雲発生頻度について,月毎に調査を行った.また,ERA5再解析データを用いて,環境場の特徴と雲頻度分布との関係を調査した.

3. 結果

 バンコクの日中の雲発生頻度は,周辺地域と比べて5〜20%多いことが示された.月ごとの空間分布を見ると,雨季(5月〜9月),冬季(10月〜2月),夏季(3月〜4月)でそれぞれ異なる特徴が見られた.雨季は都市上空で頻度が高く,都市と郊外のコントラストが明瞭である.冬季は都市とその風下で頻度が高い分布を示している.夏季は都市の風下側で雲が発生しやすい傾向が見られた.乾季における都市風下の高頻度域は,季節風(850 hPa高度の風)の強さと関係しており,季節風の強い11月〜12月には高頻度域が60 kmまで延びるが,季節風の弱い1月〜2月には10 km程度に留まる.一方,雨季では季節風に関係なく都市上空で頻度が高く,特に季節風の強い6月〜8月でも都市上空に限られている.これらの現象は背景湿度の違いによるものと考えられる.背景湿度が高い雨季には,都市における対流が活発になるためだと推測される.

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