日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 511
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整備新幹線と基本計画路線をめぐる2025年の論点
各地での対話とヒアリングから
*櫛引 素夫
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抄録

1.はじめに 整備新幹線は5路線のうち東北新幹線・盛岡以北が2010年12月に、九州新幹線が2011年3月に全線開通を迎えたが、残る3路線の工事や着工が難航している。2016年3月に部分開業した北海道新幹線は、2031年春を見込んでいた新函館北斗-札幌間の延伸が「未定」となり、2038年度にずれ込むとの情報がある。また、2024年3月に敦賀まで延伸された北陸新幹線は敦賀-新大阪間が着工できずにいる。2022年9月に部分開業した西九州新幹線も、残る新鳥栖-武雄温泉間の着工のめどが立っていない。

 その一方で、全国幹線鉄道整備法に基づいて1973年に基本計画に名が載った「基本計画路線」の沿線においては、整備計画路線への格上げを目指す動きが活発化している。

 本報告では、整備新幹線および基本計画路線の状況について、報告者の各地での講演における対話、ヒアリングの結果に基づき、2025年1月時点の論点を整理し、今後を展望する。

2.整備新幹線の各路線 鉄道・運輸機構は2024年5月、北海道新幹線の2031年春の札幌延伸が困難であり、開業時期も示せないと国土交通大臣に報告した。理由は掘削を阻む破砕帯や岩塊が存在すること、重金属汚染対策が必要な残土が発生していることなどと説明された。北海道新聞は2024年12月27日、2038年度の札幌延伸を軸に調整が進んでいると報じた。延伸に伴い並行在来線は旅客扱いが廃止される見通しで、貨物列車の扱いは2025年度中に決定される方針である。

 北陸新幹線の敦賀-新大阪間は2024年8月、「小浜・京都ルート」の駅・ルート詳細、費用の概算値が公表さた。京都駅付近は「南北案」「桂川案」、そして「東西案」(後に除外)の3案が示されたが、同年中を予定していたルートの最終決定は結局、見送られた。この間、工事期間短縮のため「米原コース」への変更を求める声が、富山、石川、滋賀の各県で強まっている。ただし、同区間の建設の財源についてはまだ決まっていない。

 また、西九州新幹線は佐賀県の異論によってストップしている新鳥栖-武雄温泉間の着工をめぐり、佐賀県知事、長崎県知事、JR九州社長が2024年5月にトップ会談したが、その後、大きな進展は見ていない。

3.基本計画路線 東九州新幹線(福岡市-大分市-宮崎市-鹿児島市)をめぐり、大分県は2023年7月、既定の「日豊本線ルート」に加えて「九大本線(久留米-大分)ルート」の独自調査結果を公表した。さらに翌2024年2月、県の研究会は大分県と愛媛県をむすぶ「豊予海峡ルート」の整備を促す報告書を知事に提出した。他方、宮崎県も同年12月、九州新幹線・新八代駅と宮崎市を直結する「新八代ルート」、鹿児島中央駅と同市を結ぶ「鹿児島中央先行ルート」構想を明らかにした。

 北海道では旭川市を中心とする道北地方の市町村・経済界が2021年3月、「北海道新幹線旭川延伸促進期成会」を設立し、基本計画路線である札幌-旭川間の建設運動をスタートさせた。2016年5月に発足した「山形県奥羽・羽越新幹線整備実現同盟」は、山形新幹線のフル規格化を視野に、「米沢トンネル」(仮称)建設を目指して、JR東日本と2022年10月、覚書を交わしている。2017年7月に発足した四国新幹線整備促進期成会は2024年、着工促進に向けて署名活動を展開した。

 山陰縦貫・超高速鉄道整備推進市町村会議(事務局:京丹後市役所)は2023年に新規ホームページを開設、山陰新幹線、中国横断新幹線(伯備新幹線)整備推進会議(事務局・松江市役所)は2024年、国への要請活動などを行った。

4.考察 整備新幹線は十数年、開業を迎える機会がなくなる。この間にも進んでいく、人口減少・高齢化をはじめとする社会の変容に、関連する地域政策をどう形成・適合させていくかが鍵となる。また、北陸新幹線や西九州新幹線をめぐっては、自治体の合意形成プロセスの再構築が焦点となる。基本計画路線地域は、これらの課題を踏まえた上で、相互に連携できるかが大きな課題である

5.おわりに 新幹線は建設自体が目的化しやすい傾向がある。国全体を俯瞰して見えてくるのは「地域の将来を構想する軸となる、新幹線に代わり得る政策の不在」である。また、在来線など二次交通網が細る中で、国として、新幹線を軸とした交通ネットワークをどう維持し、再構築していくのかが最大のポイントとなる。整備新幹線と基本計画路線の問題は、交通問題として以上に、国土政策、さらに地域を維持するための「民主主義の問題」として再定義される必要があろう。

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