1.はじめに
オリエンテーリングの地理教育への導入ついては、Boardman(1989)らによって地図学習や野外学習に際して有効性が述べられ活用が推奨され、日本でも池(1993)、永田(2005)らによって地理教育・地図学習の観点からの有効性について話題にされている。筆者は高等学校の地理授業や部活動の中でオリエンテーリングを扱い実践を行い、具体的な技能、実習方法、効果などについて研究を進めてきた(小林 2015、2018、Kobayashi 2019)。異動に伴い新たな高校での実践を行うことができ、比較検討によって実践についての汎用性、普遍性などをより深めた検討が可能となったので、得られた知見について述べたい。
2.異なる三つの高等学校における実践
2014年千葉県立松戸国際高等学校第3学年地理A受講者、地理B受講者及び第1学年地理A受講者(※教育課程の移行期のため科目が学年をまたがって開講されている)の合計138名、2021年千葉県立千葉高等学校第1学年地理A受講者319名、2024年千葉県立幕張総合高等学校第1学年地理総合受講者280名を対象に地理授業においてそれぞれ3回、オリエンテーリング実習を行った。学校敷地は台地と低地(谷津田)の境目で切土と盛土で造成、台地上をそのまま利用、埋立地、と地形的にそれぞれ異なる環境である(地図1)。
3.比較分析方法
3回の実習の中で授業時間内に収まるように距離や難易などについて短→長、易→難となるようにコースを設定した。授業方法はすべて同一である。3回の実習の授業の前後に竹内(1992)の方向感覚質問紙(竹内 1992)を用いて調査を行った。調査の内容は方向感覚を地図読図に関係する部分と現地観察に関係する部分の二つの部分にわけ、それぞれの程度を表す得点が算出できる。事前事後変化、学校間の差、男女差などについて分析を行った。
4.考察
結果は表1のとおりである。方向感覚全般の事前事後の変化については3校ともほぼ同程度であり、3校とも方向感覚のうち地図読図力について変化が大きい。対象学年や対象人数でほぼ同一の条件である県立千葉高校と幕張総合高校との学校差をみてみると、事前、事後のそれぞれにおける方向感覚全般、地図読図力、現地観察力については、二校に間で差がみられ全体として300名前後の人数から有意差ありとされるものの、男女それぞれに分けると有意差は示されない。事前事後の変化についての学校差はほとんどない。このことから、実習は方向感覚(地図読図力、現地観察力)について同程度の効果をもたらしており、特に地図読図力を引き上げる効果がある。
5.まとめと展望
この実習における学習内容においては、生徒や学校敷地の立地が異なっていても、同等の効果をもたらす。地図を利用して現地を捉えながら目的地までたどるナビゲーション技能はあらゆる地理の学習においての基礎と考えることができる。前回の学習指導要領「地理A」「地理B」解説の「3 指導計画の作成と指導上の配慮事項」「(2) 地理的技能について」「②の地図の活用に関する技能」にあった「a …どこをどのように行けばよいのか,見知らぬ地域を地図を頼りにして訪ね歩く技能を身に付けること。」(文部科学省 2009)に記述が今回の学習指導要領「地理総合」「地理探究」解説からはなくなったが、この技能の重要性について改めて言及したい。