日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P020
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地理総合における防災教育の現状と課題
*小関 祐之吉田 圭一郎牛山 素行堀 和明高橋 信人
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抄録

I はじめに現行の教育課程が始められた令和4年から3年が経過し,現在では必履修科目としてほぼ全ての高等学校で地理総合が実施されている.地理総合の大項目C「持続可能な地域づくりと私たち」に「(1)自然環境と防災」があり,防災教育の充実が図られることとなっている.高校学校教育を通じて社会全体の防災力の向上を目指すためには,地理総合の中で防災教育がどのように実施されてきたのかを把握する必要がある.地理総合の実施状況についてはさまざまな観点から調査研究が行われてきた(例えば,日本地理学会地理教育専門委員会・日本学術会議地理教育分科会学校地理教育小委員会Webアンケート担当グループ 2022や志村ほか 2023など).これらは実施直後の状況把握を目的としており,地理総合の設置の実態や地理総合全般の内容に関するものである.そのため,地理総合での防災教育の実施状況については未だ十分には把握されていない.そこで本研究では,地理総合における防災教育についてのアンケート調査を行い,実施状況ならびに防災教育を進める上での課題について明らかにすることを目的とした.地理総合での防災教育にあたっては,自然条件(ハザード)だけでなく,社会的条件を加えた災害(ディザスター)を理解する必要があることから,本研究ではこの点についても着目して分析を行った.II 研究手法地理総合における防災教育についての具体的かつ効果的なアンケート結果を得るため,本研究ではまず東京都立大学と高大連携協定を結ぶ高等学校を中心に,地理総合を担当する教員へのインタビュー調査を対面で行った.インタビュー調査では,地理総合での防災教育の実施状況だけでなく,「自然環境と防災」における授業内容や課題などについての聞き取りを行った.次に,インタビュー調査での聞き取りを踏まえ,地理総合における防災教育についてのWebアンケートを作成し,地理総合を担当する高校教員を対象に実施した.Webアンケートの実施期間は2024年7~9月で,125の有効回答を得ることができた.実施したアンケートの主な内容は,地理総合での防災教育の実施状況,「自然環境と防災」での授業内容,授業で取り上げた社会的条件,地理総合での防災教育における課題などである.III アンケート結果と考察回答者のほとんどが国公立の高等学校に勤務する教員であり(87.9%),地理科目を担当した経験年数は5年未満が33.1%,5〜9年が17.7%,10〜19年が20.2%,20年以上が29.0%であった.主な専門領域は地理が多数の74.2%を占め,日本史,世界史,公民はそれぞれ7〜10%であった.地理総合で自然災害や防災を取り上げたと回答したのは全体の9割で,専門領域が地理の教員はほとんど全員が取り上げていたのに対し,他領域の教員では3割が取り上げていなかった.自然災害や防災を取り上げたと回答した教員のうち27%が「自然環境と防災」以外の単元で取り上げていた.聞き取りや自由回答から,地形や気候などの自然環境を生活文化との関わりで学ぶ授業と関連付けて,授業を構成する教員が少なからずいることが明らかとなった.「自然環境と防災」の単元に配分された授業時間数は,5〜6時間とした回答が最も多かったが(30.3%),4時間以下が42.7%を占めていた.一方で,地震・津波,火山,風水害の全てを取り上げた回答者は全体の66%と多く,少ない時間の中で自然災害全般を学習する必要がある状況がうかがえた.ほとんどの回答者が「自然環境と防災」の授業の中で社会的条件を取り上げていたものの(95.6%),社会的条件の項目は教員によってばらつきが大きかった.地理領域の教員や地理科目の経験年数が20年以上の教員では,「都市」や「土地利用」に偏る傾向がみられた.一方で,他領域の教員や担当年数が短い教員では「社会的弱者」を取り上げる割合が高くなっていた.聞き取りや自由回答も踏まえると,地理総合で防災教育を行う意義は大きいと感じている教員が多い一方で,授業時間を確保できていない状況にあることが本研究の結果から推察された.また,地理総合での防災教育において,扱うべき社会的条件についての考え方が系統的に定まっていない様子が伺えた.身近な地域における災害リスクを考えさせる上で,地理総合の授業の中で取り上げるべき社会的条件について,その定義や内容などをしっかりと提示していくことが今後必要であると考えられた.

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